兵学館視察へ
久万神社建立の祭事を終え、四国はようやく平穏を取り戻し始めていた。
松山城の評定で、那須資忠は一枚の地図を広げる。
「中村に水軍士官学校を設立したい。」
その一言に、その場は静まり返った。
那須は続ける。
「兵学館は陸戦を中心とした総合士官学校として完成しております。しかし、四国が必要とするのは海を知る将です。」
「瀬戸内、豊後水道、黒潮――。」
「これらを自在に使いこなす将を育てるには、水軍に特化した学校が必要になります。」
陶晴賢も頷いた。
「造船、航海、砲術、陸戦との連携。四国ならではの学びを作らねばならぬ。」
佐野は腕を組み、しばらく考えてから口を開いた。
「ならば、兵学館をもう一度見ておくべきだな。」
「はい。」
那須は頷く。
「寮制度、教官の配置、教練、学科、卒業後の配属まで、改めて学び直したいと思います。」
佐野は静かに笑った。
「私は摂津をはじめ畿内を預かる身だ。長く国を空けるわけにはいかん。」
河内、和泉、淡路、そして摂津。
ようやく落ち着きを見せたとはいえ、畿内には佐野でなければ収まらぬ案件が山積していた。
「ゆえに、今回は私ではなく――。」
佐野は二人を見た。
「那須、お前が行け。」
「そして陶殿。」
陶も静かに頷く。
「承知した。」
佐野は続ける。
「兵学館の制度を最も理解しているのは那須だ。そして陶殿には実戦家として見てもらいたい。」
「中村水軍士官学校は、兵学館を写すだけでは意味がない。四国に合うよう作り変えねばならぬ。」
本多も賛同した。
「造船も軍学も分かる陶殿がおられるなら、これ以上の人選はありますまい。」
那須は頭を下げた。
「では、しばらく坂東へ向かいます。」
陶も笑みを浮かべる。
「久しぶりの兵学館か。懐かしい顔にも会えそうだ。」
佐野は二人を見送りながら穏やかに言った。
「畿内のことは私に任せよ。」
「お前たちは存分に学び、中村に四国初の水軍士官学校を築いてこい。」
こうして佐野は摂津を中心とする畿内の政務と軍務を預かり、那須資忠と陶晴賢は、四国の未来を担う中村水軍士官学校創設の礎を築くため、母校・兵学館の視察へと旅立つのであった。




