久万神社建立の儀
六月――。
若葉が深緑へと移ろう頃、四国各地の諸将が久万高原へと集った。
讃岐より那須資忠、伊予の諸将、西園寺家、一条家の使者、そして淡路より松永久秀。さらに摂津より佐野昌綱も参列し、愛宕山神社より迎えた御神霊を祀る久万神社建立の儀が厳かに執り行われた。
久万は、今では静かな高原である。
しかし、誰もが知っていた。
この地は、ほんの一年ほど前まで伊予と土佐の命運を懸けた戦いの最前線であったことを。
堀には幾度も兵が立ち、土塁には矢が突き刺さり、見張り台からは敵陣の狼煙が昼夜を問わず見えていた。
そして久万高原こそ、那須・陶・本多らが長宗我部軍を迎え撃ち、四国の行方を決した最後の決戦の舞台であった。
その戦場に、今は幟ではなく白幣が立ち、軍鼓ではなく雅楽が響く。
山の風に祝詞が流れ、神職が厳かに祝詞を奏上すると、参列した武将たちは一斉に頭を垂れた。
佐野は静かに周囲を見渡した。
かつては急ごしらえの砦であった場所には社殿が建ち、整えられた参道の先には、まだ若いながらも町の姿が芽吹き始めている。
那須が小さく口を開いた。
「ようやく、この地が戦うための場所ではなく、人が集う場所になります。」
陶も静かに頷く。
「戦場を鎮守の地へ変える。それこそ我らが目指したことであった。」
松永久秀は珍しく冗談を口にせず、社殿へ視線を向けたまま言った。
「城はいずれ朽ちる。されど神を祀る社は、人が守る限り残る。良い仕事をしたものだ。」
佐野は祭壇へ玉串を奉り、ゆっくりと振り返る。
「この久万神社を、四国の鎮守とする。」
「ここから四国の平和を守り、ここから四国を豊かにしていこう。」
その言葉に、一同は深く頷いた。
こうして建立の儀は、終始厳粛かつ格式高く執り行われた。
かつて四国最大の激戦地であった久万高原は、この日を境に、戦勝の象徴ではなく、人々の安寧と繁栄を祈る四国の新たな鎮守・久万神社として、新たな歴史を歩み始めた。




