四国の富、そして海軍の未来
四国の新たな産物について一通り話し終えると、議題は再び坂東フリガッタへ移った。
大掾義康は建造途中の船を見つめながら口を開く。
「この船は、一隻で戦う船ではありませぬ。」
「艦隊を組み、互いに支え合って初めて力を発揮します。」
「ゆえに、船より先に人を育てねばなりませぬ。」
那須は頷いた。
「兵学館とは違うのか。」
「はい。」
「兵学館は武将を育てる学び舎。」
「私が考えているのは、海軍将校だけを育てる専門課程です。」
「兵学館で二年間学んだ者のみ編入を許し、航海術、天文学、測量、造船学、艦隊運動、砲術、兵站、南蛮語を教えます。」
佐野は腕を組む。
「場所はどこがよい。」
大掾は地図を広げた。
候補は、堺、伊丹、雑賀、洲本、そして土佐中村。
宗及は堺を推した。
「南蛮人も商人も多く、学ぶには申し分ありませぬ。」
佐野は伊丹を挙げる。
「行政との連携なら伊丹が便利だ。」
しかし那須は静かに首を横へ振る。
「いや……。」
「造船所の隣に学校があるべきだ。」
「学んだことを、その日のうちに船で試せる。」
「試したことを、その日のうちに船大工へ伝えられる。」
大掾も力強く頷いた。
「私も同意です。」
「中村には造船特区があります。」
「土地も十分にございます。」
「造船、試験航海、教育、研究。」
「すべてを一か所で行えるのは中村だけです。」
宗及も笑みを浮かべた。
「町もこれから造れますな。」
「学校ができれば、人も集まる。」
「職人、商人、船乗り、教官。」
「港は自然と大きくなりましょう。」
その場にいた者は皆、異論を唱えなかった。
那須は筆を取り、決定を書き記す。
「よし。」
「水軍士官学校は土佐中村に置く。」
「ただちに氏治へ書状を送り、裁可を仰ぐ。」
「併せて兵学館へも書状を送り、専門課程設置の協力を願う。」
さらに那須は筆を進めた。
「松永久秀には港湾整備と海軍運用について。」
「長宗我部には土佐の人足と海の知識について。」
「陶晴賢には造船と海軍戦術について。」
「それぞれ協力を願う。」
こうして評定は終わった。
一つの学校を建てる決定であった。
しかし実際に築かれるのは学校だけではない。
中村には造船所を中心として、武家町、職人町、商人町、宿場町、蔵、道場、練兵場が次々と整備されることとなる。
一つの港町は、この日、日本初の本格的な海軍都市へと歩み始めたのであった。




