↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
543/1029

一五六九年五月 雑賀港の軍議――四国の富を育てよ

雑賀港。


小田家が造船監督のために設けた屋敷には、木の香りと潮風が入り混じっていた。


集まったのは、那須、大掾義康、佐野昌綱、そして商人・今井宗及である。


造船視察を終えた一行は、茶を前に四国の産業について語り始めた。


那須が地図を見つめながら口を開く。


「困りましたな。」


「当初は土佐の山から切り出した木材を京や堺へ流し、四国の富にしようと考えておりました。」


一度言葉を切り、苦笑する。


「しかし実際には違いました。」


「坂東フリガッタに、新式坂東ガレオン。」


「どちらも木を食う。」


「結局、土佐の木材はほとんど造船へ回り、京へ売る余裕がありませぬ。」


佐野も頷いた。


「つまり四国は、畿内から品を買うばかり。」


「金が外へ流れておる。」


その言葉に、大掾が静かに口を開いた。


「ならば、木以外を売ればよろしい。」


皆の視線が集まる。


「土佐や紀伊では古くから鯨を食します。」


「肉だけではありません。」


「鯨油は灯火にも潤滑にも使えます。」


「骨や皮も無駄にはなりませぬ。」


大掾は少し笑う。


「さらに髭もございます。」


「南蛮では様々な細工に使うと聞きます。」


「傘や婦人の衣装などに使うとも申しますが、どれほど需要があるかは、今井殿に聞くのが早いでしょう。」


今井宗及は静かに茶を置いた。


「ございます。」


「数は多くありませぬが、珍しき品は値が付きます。」


「特に鯨油は船乗りも商人も欲しがりますな。」


大掾はさらに続けた。


「肉は塩漬けにいたしましょう。」


「長く保存が利きます。」


「海軍の兵糧にも、交易船の食料にもなります。」


那須は深く頷いた。


「なるほど。」


「海から得たものを、再び海へ返すわけですな。」


今度は佐野が地図の阿波と讃岐を指した。


「それだけではありませぬ。」


「藍。」


「綿。」


「麻。」


「これらは畿内でいくらあっても足りませぬ。」


「武家も町人も必要とする品です。」


宗及も即座に同意する。


「特に藍は良う売れます。」


「堺の商人はいくらでも買いましょう。」


佐野は最後に讃岐を指で叩いた。


「そして砂糖。」


「坂東は年々砂糖を欲しております。」


「今は南方からの品に頼ることが多い。」


「ならば讃岐で作るべきです。」


大掾も頷いた。


「塩田もございます。」


「塩づくりの技を応用すれば、砂糖づくりも道は開けましょう。」


那須は静かに笑みを浮かべた。


「木は船となる。」


「海は鯨を与える。」


「阿波は藍を育て、讃岐は砂糖を生む。」


「ようやく四国が、戦う国ではなく、稼ぐ国になってまいりましたな。」


屋敷の外では、槌の音が絶え間なく響いていた。


新たな船が生まれる音。


そして同時に、新たな四国の産業が形を成そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。