恋瀬川橋城
恋瀬川橋城 ― 川の関
父・政治の葬儀を終えた氏治は、蜈蚣切りを佩き、軍旗「雷霞一撃」を掲げて恋瀬川へ進軍した。
数日の行軍の末、一行が到着したのは、築造が始まったばかりの恋瀬川橋城である。
まだ第一段階の工事を終えたばかりだったが、その姿は家臣たちの誰も見たことのないものだった。
橋であり、
城であり、
そして川の関でもある。
橋脚はそのまま城の基礎となり、その上には櫓が築かれている。両岸には土塁と馬出しが伸び、橋を渡る者だけでなく、舟で川を上下する者も監視できるよう、水面へ張り出した見張り台まで備えられていた。
戦時には渡河を阻む要塞。
平時には川を行き交う船を監督し、通行を管理する川の関。
軍事と物流を一体化した施設だった。
さらに橋城の周囲には、恋瀬川から引き込まれた水が満ちている。
第一段階の工事にもかかわらず、春の雪解けと雨によって川堀はすでに満々と水をたたえ、青黒い水面が橋城を囲んでいた。
「見事なものですな……。」
宍戸政繁は思わず息を漏らす。
「まだ未完成とは思えませぬ。」
氏治は橋の中央へ歩み、水面を見下ろえた。
「川が満ちてくれたおかげだ。」
わざわざ掘った堀ではない。
恋瀬川そのものを取り込み、水を引き入れた天然の堀である。
橋の正面には鉄砲座と弓座が並び、左右の馬出しからは橋全体へ側射できるよう射角が計算されていた。屋根付きの射座は雨から火縄や弓弦を守る造りとなっている。
そして、敵が渡れる場所は、ただ一つ。
氏治があえて残させた橋だけだった。
「佐竹はここを渡るしかない。」
氏治は北を見据える。
「橋を渡れば、橋の上で止まる。止まれば、四方から撃たれる。」
真壁幹久は橋城を見回し、静かに笑った。
「まるで橋そのものが罠ですな。」
「その通りだ。」
氏治も小さく笑う。
「これは城ではない。橋でもない。」
軍旗「雷霞一撃」が春風にはためく。
「坂東の川を守る関だ。」
静かな恋瀬川の流れは、その日から小田領へ入る者を見定める境界となり、橋城は佐竹軍を待ち受ける巨大な水の砦として、その役目を果たそうとしていた。




