四国城割評定 ― 新しき四国
永禄十二年(一五六九)一月半ば。
海軍改革の大方針が定まり、坂東フリガッタ計画が正式に承認されると、氏治は広げられていた海図を静かに畳んだ。
「これより四国の城割を定める。」
海軍改革を前提とした新たな四国の姿を決める評定が始まった。
那須資忠は四国全図の前へ進み、ゆっくりと口を開く。
「まず伊予。」
「伊予は私、那須が預かります。」
河野が静かに頷いた。
「我が家には男子がおりませぬ。」
「河野家は家名だけでも残したい。」
那須は深く頭を下げる。
「承知しております。」
「後日、我が弟・那須資宗を河野家の養子として迎えていただき、河野家を継がせます。」
河野は満足そうに微笑んだ。
「それでよい。」
那須は続ける。
「私は松山へ入り、湯築城を居城とします。」
「ただし城は拡張いたしません。」
諸将が顔を見合わせる。
「木材はすべて造船へ回します。」
「松山近郊の良港を整備し、四国海軍の軍港とします。」
氏治は静かに頷いた。
「城より船。」
「それがこれからの坂東である。」
続いて那須は土佐を指した。
「長宗我部家は土佐一国を安堵します。」
元親は深く頭を下げた。
「御恩、忘れませぬ。」
「ただし、中村は造船特区とします。」
「坂東フリガッタ建造の中心地として整備し、諸国の木材を集めます。」
元親も異論はなかった。
那須は西南伊予へ目を向けた。
「西園寺家は存続します。」
「しかし男子がおりませぬ。」
氏治が続ける。
「西園寺家は大掾義康と婚姻し、その家督を大掾家が継ぐものとする。」
大掾は深く一礼した。
「西園寺の名を辱めぬよう努めます。」
「大掾家、西園寺家はともに那須の指揮下へ置く。」
氏治はさらに言葉を続けた。
「讃岐は陶晴賢へ預ける。」
陶は静かに立ち上がった。
「承知いたしました。」
「家臣団とともに讃岐へ入り、瀬戸内の中央を守ります。」
那須は阿波を指した。
「阿波は本多正信殿へ預けます。」
広間が静まり返る。
本多は静かに手を合わせた。
「身に余る大役にございます。」
氏治は穏やかに言う。
「本多は奈良にて一向宗門徒をまとめ、多くの命を救った。」
「今の阿波には武より政が要る。」
「本願寺には阿波統治への協力を願う。」
本願寺方は深く頭を下げた。
「本願寺より政務に長けた家臣団を派遣いたします。」
こうして阿波は、本多正信を中心とし、本願寺家臣団がこれを支える新たな統治体制となった。
続いて氏治は安宅へ目を向けた。
「安宅殿。」
「そなたほど海を知る者を、一国に留めるのは惜しい。」
「今日より那須家配下とし、四国海軍の中核を担ってもらう。」
安宅は深く頭を下げた。
「この命、海へ捧げます。」
「岩成もまた那須の指揮下へ置く。」
岩成も静かに一礼した。
最後に香川が呼ばれる。
氏治は穏やかな口調で語りかけた。
「香川殿。」
「そなたにも新たな四国を支えてもらいたかった。」
香川はゆっくりと首を横へ振る。
「……もう心が折れました。」
「戦も、人も、すべて失いました。」
「武士として立つ力は残っておりませぬ。」
広間は静まり返る。
氏治はしばらく考え、静かに口を開いた。
「ならば無理には求めぬ。」
「鹿島衆の商船に乗り、朝鮮へ渡るがよい。」
「現地商人として余生を送り、新たな人生を歩め。」
香川は深々と頭を下げた。
「……最後まで情けを賜り、感謝いたします。」
氏治は静かに立ち上がった。
「これにて四国城割評定を終える。」
「四国は今日より、一つの国として歩み始める。」
誰一人として異を唱える者はいなかった。
こうして四国は、那須を総帥として、伊予・讃岐・阿波・土佐をそれぞれの役割に応じて再編し、海軍国家への第一歩を踏み出した。
後にこの評定は、**四国の新秩序を定めた「永禄十二年四国城割評定」**として語り継がれることとなる。




