坂東評定 ―― 軍船改革の決定
大掾の説明が終わると、広間はしばし静寂に包まれた。
氏治はゆっくりと家臣たちを見渡す。
「皆の意見を聞こう。」
最初に口を開いたのは、新田義綱であった。
「この船は戦には最適でしょう。しかし坂東が富む理由は戦ではございませぬ。」
「坂東の富の源泉は、田畑、職人、そして海を行き交う交易にございます。」
「商いを絶やせば、この船を造る金も尽きましょう。」
結城朝基も頷く。
「まことに。」
「交易船まで軍船へ変えてしまえば本末転倒。商いは商い、戦は戦として分けるべきにございます。」
宇都宮朝綱も賛同した。
「旧式坂東ガレオンは積載量に優れ、長距離航海にも実績がございます。」
「交易船としてなお第一線で働けましょう。」
真壁幹久は模型を眺めながら笑う。
「ならば答えは一つ。」
「坂東ガレオンは交易に専念させる。」
「戦は新しい船に任せればよい。」
氏治は静かに頷いた。
「軍船と商船を分ける、か。」
大掾は深く一礼する。
「左様にございます。」
「交易は旧式坂東ガレオン。」
「軍事は新たな軍船。」
「互いの役目を分ければ、どちらもより力を発揮いたしましょう。」
氏治は模型を見つめ、小さく呟いた。
「新式坂東ガレオン……。」
しかし、すぐに首を振る。
「いや。」
「これはもはやガレオンではない。」
広間が静まり返る。
「これよりこの船を――坂東フリガッタと呼ぶ。」
誰一人異を唱える者はいなかった。
続いて氏治は奉行衆へ命じる。
「坂東ガレオンは、一五五〇年以前より建造を始めている。」
「古い船も少なくあるまい。」
奉行が頷く。
「修繕すれば、なお十分に航海できる船がございます。」
「それらは修繕のうえ、大友家へ払い下げよ。」
「交易船として用いてもらえばよい。」
「その売却で得た資金は、一文残らず坂東フリガッタ建造へ回す。」
家臣一同は賛同し、異論はなかった。
こうして坂東水軍は、**富を生む「坂東ガレオン」と、海を守る「坂東フリガッタ」**という二本柱へと大きく舵を切ることが決定した。




