第六案 坂東新式軍船 ―― 日本の海のための軍船
五つの模型が並ぶ中、大掾は静かに手を打った。
広間の障子が開き、数人がかりでこれまでより一回り大きな模型が運び込まれる。
どよめきが起こった。
「……これが。」
「いや、今までのどの船とも違う。」
船体は西洋船ほど大きくない。
福建船ほど深くもない。
安宅船のような高い楼閣も持たない。
しかし、その姿には無駄が一切なかった。
大掾は模型の前に立ち、ゆっくりと口を開く。
「これは異国の船ではございませぬ。」
「これまでお見せした五つの案を叩き台として、日本の海のためだけに設計した軍船にございます。」
家臣たちの視線が集まる。
「基本となる思想は、西洋の帆船を小型高速化すること。」
「しかし、それだけでは日本では戦えませぬ。」
大掾は船腹を指した。
そこには普段は船体に収められた補助櫓が見えた。
「日本の海は潮が速く、風も刻々と変わります。」
「瀬戸内、豊後水道、紀伊水道では、風だけに頼る船はいずれ敵となる潮に捕らえられましょう。」
「ゆえに坂東は、日本古来の漕船の思想を捨てませぬ。」
「必要な時だけ櫓を出し、風があれば帆を張る。」
「帆船と漕船、その折衷にございます。」
続いて五つの模型を順に指した。
「西洋からは帆装と砲術。」
「福建からは小型船による集団運用の思想。」
「日本からは潮流を制する漕船の理。」
「その三つを合わせたものが、この坂東新式軍船でございます。」
さらに安宅船の模型を横へ並べる。
「この船は、一騎討ちをするための船ではございませぬ。」
「一隻の安宅船に対し、四隻、六隻、八隻が連携して砲撃を浴びせる。」
「敵が一隻を追えば、残る船が横腹を撃つ。」
「敵が向きを変えれば、また別の船が砲撃する。」
「常に敵を囲み、休ませず、削り続ける。」
「それこそが、この船の戦い方でございます。」
最後に大掾は船体を軽く叩いた。
「しかも小型ゆえ、一度構造設計さえ確立すれば、建造は難しくありませぬ。」
「大船を十年かけて一隻造るより、この船を一年で数隻造る方が、坂東にはふさわしい。」
「部材も少なく、人手も抑えられる。」
「損傷しても修理は早く、失っても補充は容易。」
大掾は穏やかに微笑んだ。
「これより先の海戦は、一隻の英雄が勝つ時代ではございませぬ。」
「よく鍛えられた小型軍船が群れとなり、一つの生き物のように動く時代。」
「それが、坂東新式軍船の思想にございます。」




