第三案 これからの西洋の進化型
講堂は静まり返っていた。
大掾幹康は三隻目の模型へ歩み寄る。
静かに白布を外した。
現れた船は、それまでの二隻とはまるで違っていた。
船楼はさらに低い。
船体は細長く伸び、帆柱は高く大きい。
舷側には整然と二列の砲門が並び、まるで船全体が一つの砲台のようであった。
誰も口を開かなかった。
氏治が静かに尋ねる。
「これは何という船だ。」
大掾はゆっくり首を振る。
「まだ名はありません。」
「いえ。」
「まだ、この世に存在しない船です。」
講堂がざわめいた。
松永久秀が苦笑する。
「未来の船か。」
「はい。」
大掾は頷いた。
「私は西洋で学びました。」
「そして兵学館で歴史を学びました。」
「歴史とは、過去を知るだけではありません。」
「未来を読む学問です。」
彼はガレオンの模型を指した。
「現在、西洋の軍船は。」
「交易も。」
「戦も。」
「一隻で担っております。」
「しかし。」
「いずれ役目は分かれるでしょう。」
講堂は静まり返る。
「交易船は荷を運ぶ。」
「軍船は戦う。」
「互いに異なる進化を始めます。」
大掾は未来の模型を静かに回した。
「軍船は。」
「さらに船楼を低く。」
「さらに船体を長く。」
「さらに速く。」
「そして。」
「火砲を主役とします。」
佐野が尋ねる。
「乗り込まぬのか。」
「乗り込みます。」
「ですが。」
「最後だけです。」
「勝負は。」
「砲撃によって決まるようになります。」
那須が眉をひそめる。
「海で砲だけで勝つと。」
「そうです。」
「船は。」
「兵を運ぶためではなく。」
「砲を運ぶための器になります。」
講堂には重い沈黙が流れた。
氏治がゆっくり口を開く。
「ならば。」
「この船を造るか。」
大掾は静かに首を横へ振る。
「いいえ。」
「まだ早すぎます。」
「現在の火砲では。」
「重すぎます。」
「命中率も低い。」
「装填も遅い。」
「船そのものも、これほど多くの砲に耐えられません。」
彼は未来の模型を優しく撫でた。
「この船が真に完成する頃には。」
「私の子の代か。」
少し笑みを浮かべる。
「あるいは孫の代でしょう。」
講堂に静かな笑いが広がる。
大掾は続けた。
「歴史は、一足飛びには進みません。」
「船も。」
「火砲も。」
「造船も。」
「少しずつ進歩してゆきます。」
「この船は。」
「未来の姿です。」
「しかし。」
「今の我らが造るべき船ではありません。」
氏治は深く頷いた。
「未来は分かった。」
「では福建人がつくる対安宅船と未来のふねについても聞かせてほしい」
大掾幹康は三隻の模型をさげた。
残った二隻を机の中央にそっと寄せる。
そのうちの一つを手に取ってなでた。
「ではまず福建人が対安宅船をつくったらどうなるか、です。」
兵学館講堂はまた大掾に視線を戻した。




