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東洋とアジアの船史

大掾幹康が一礼して壇上を下りると、氏治はゆっくりと口を開いた。


「西洋の海を知った。」


「ならば今度は、我ら東洋の海を知ろう。」


壇上へ一人の男が歩み出る。


鹿島政道。


小田家創業以来、交易、海運、諜報、海賊衆との折衝を束ねてきた壮年の重臣である。


東シナ海から琉球、福建、堺、博多に至るまで、その航路と港を知り尽くしていた。


鹿島は深く一礼した。


「大掾殿は西洋の船の歴史を語られました。」


「私は東洋とアジアの船をお話しいたします。」


壇上には新たな模型が並ぶ。


河船。


楼船。


福船。


宝船。


ジャンク船。


遣唐使船。


和船。


小早。


関船。


安宅船。


鹿島は河船を手に取る。


「東洋の船は、大河より始まりました。」


「黄河。」


「長江。」


「大河が文明を育み、船もまた河を行き交う舟として発達します。」


次に楼船を掲げる。


「漢。」


「三国。」


「唐。」


「ここで国家は巨大な船を造ります。」


「しかし目的は海戦ではありません。」


「兵を運び。」


「兵糧を運び。」


「河川を支配する。」


「東洋は河の文明ゆえ、積載と輸送が発達しました。」


続いて福船を示す。


「宋になると海商が栄えます。」


「福建の商人たちは外洋へ乗り出し、大型帆船を育てました。」


「深い船腹。」


「水密隔壁。」


「大きな帆。」


「長い航海。」


「交易が船を育てたのです。」


さらに宝船を中央へ置く。


「明。」


「鄭和。」


「巨大な船団はインド洋を巡りました。」


「東洋の造船技術は、この時代に一つの頂へ達します。」


鹿島はそこで模型を下ろした。


「しかし。」


「明は海禁を敷きました。」


「巨大船は姿を消し、東洋の造船は歩みを緩めます。」


講堂は静まり返る。


鹿島は今度は日本の模型を並べる。


「日本は違います。」


「島国です。」


「潮流。」


「海峡。」


「浅瀬。」


「岩礁。」


「その海が、日本独自の船を育てました。」


小早を掲げる。


「速さ。」


関船を掲げる。


「機動。」


最後に安宅船を中央へ据える。


「力。」


「安宅船。」


「多くの兵を乗せ。」


「接舷し。」


「敵船へ乗り込み勝つ。」


「日本の海では、まさに完成形と言えるでしょう。」


松永久秀が満足そうに頷く。


「その通り。」


鹿島も頷いた。


「安宅船は、日本という海が生んだ名船です。」


「しかし。」


彼は講堂の隅に置かれた一隻の模型を指した。


それは坂東で建造された大型帆船であった。


「実は坂東では数年前より、このような大型帆船を建造しております。」


「我らは便宜上、坂東ガレオンと呼んでおります。」


講堂がざわめく。


佐野が尋ねる。


「南蛮船なのか。」


鹿島は静かに首を振る。


「いいえ。」


「華南やマニラで交易に使われていた大型帆船を買い求め、その構造を学びました。」


「福建の海商。」


「琉球の水夫。」


「南蛮人の帆装。」


「それらを参考に、坂東の船大工が坂東の木で造り直した船です。」


「ゆえに純粋な西洋船ではありません。」


ここで大掾幹康が微笑みながら口を挟む。


「私の先ほどの分類に当てはめるならば。」


「これは西洋でいうナウに近い船です。」


「大量の荷を積み。」


「外洋を渡り。」


「交易を支える。」


「その思想はナウと同じです。」


鹿島は頷いた。


「そう。」


「坂東ガレオンは交易船です。」


「坂東は日本に先駆け、外洋交易への備えを始めました。」


「ですが。」


彼は安宅船と坂東ガレオンを並べる。


「この二隻だけでは足りません。」


「安宅船は日本最強の軍船。」


「坂東ガレオンは日本最高の交易船。」


「ならば、その間を埋める船は何か。」


講堂は静まり返る。


氏治は静かに笑った。


「大掾。」


「その答えを聞かせてもらおう。」


大掾幹康は白布の掛かった一隻の模型の前へ進む。


その手がゆっくりと白布へ伸びた。

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