兵学館への緊急招集
四国の戦乱がようやく収まり、年の瀬を迎えようとしていた。
伊予では那須資忠が新たな統治の準備を進め、摂津では佐野昌綱が年越しを前に領内の政務を片付けていた。
その折、一通の書状が両名のもとへ届く。
「氏治公より緊急招集。年末の予定をすべて中止し、直ちに鹿島へ参集せよ。」
理由は記されていない。
ただ末尾には一言だけ添えられていた。
「兵学館にて待つ。」
那須は伊予を、佐野は摂津をそれぞれ家臣に託すと、急ぎ海路で東国へ向かった。
数日後、一行は鹿島へ到着する。
兵学館の講堂には氏治をはじめ、鹿島政清、水戸、結城、真壁ら重臣が静かに座していた。
その中央に立つ一人の男を見て、那須と佐野は目を見開く。
「……大掾。」
長き旅を終えた大掾幹康であった。
以前より日に焼け、その眼差しには異国の海を見てきた者だけが持つ深い自信が宿っていた。
氏治は静かに口を開く。
「諸君。本日の招集は評定ではない。」
「大掾幹康の帰国披露である。」
講堂の扉が開かれる。
そこには西洋から招かれた船大工、帆職人、鍛冶職人、航海士たちが並び、彼らが携えてきた設計図や測量器具、航海器具が整然と並べられていた。
氏治は笑みを浮かべる。
「四国の戦は終わった。次に始まるのは、海の時代だ。」
大掾は一歩前へ進み、深く一礼した。
「兵学館で学んだ知識は、西洋でようやく一つにつながりました。」
「私は船を買ってきたのではありません。」
「海の未来を持ち帰って参りました。」
講堂は静まり返る。
その日、兵学館で始まった議論は、やがて四国造船計画と新型高速軍船の誕生へとつながり、日本の海軍史を大きく変える第一歩となるのであった。




