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敵の目で見た久万城

梅雨入りを目前に控えた頃、本多正信はなおも長宗我部軍の中に紛れ込んでいた。


粗末な笠を被り、草鞋を履き、荷駄を運ぶ一人の雑兵として土佐側から久万城へ向かう。


敵として城を見るためである。


「城はまだ見えぬのか。」


前を歩く兵がぼやく。


本多も同じように辺りを見回した。


しかし、そこには高くそびえる天守も、遠くからでも分かる櫓もなかった。


山。


あるのは、それだけだった。


だが一里ほど進んだ頃、本多は違和感を覚える。


「……おかしい。」


何気なく歩いていた道が、いつの間にか狭くなっている。


左右には高い土手。


その向こうは見えない。


さらに進むと道は折れ曲がり、また折れ曲がる。


ようやく開けたと思えば、深い空堀が口を開けていた。


兵たちは迂回しようと歩みを変える。


すると今度は鋭く削られた土塁が現れ、その上には逆茂木が並んでいる。


また道を変える。


気づけば細い虎口へ入り込み、左右から射下ろされる形になっていた。


「ここで伏せられたら……。」


本多は背筋に冷たいものが走る。


敵はまだ一人も見えない。


それなのに、すでに生殺与奪を握られている。


さらに奥へ進むと、小さな曲輪が現れる。


一見すると広場のようだ。


しかし後ろを振り返れば出口は狭く、前には再び虎口。


左右には土塁。


まるで馬出のように敵兵を溜め込み、一気に討ち取るための場所であった。


本多は息を呑む。


「知らぬ間に死地へ入っている。」


「攻めているつもりで、城の思うまま歩かされているのか。」


この城には威圧する建物がない。


だから敵は油断する。


「まだ城ではない。」


「本丸まで遠い。」


そう思って歩き続ける。


だが実際には、山へ足を踏み入れた瞬間から陶晴賢の縄張りの中なのである。


本多は静かに山を見上げた。


「見事だ……。」


「城とは壁を築くものではない。」


「敵を歩かせるものなのだ。」


その言葉を胸に刻むと、本多は列を離れた。


遍路として久万を歩いた記憶を頼りに、人目につかぬ山寺へ向かう。


そこから岩戸へ移り、さらに尾根伝いに久万城を見渡した。


そして一人、小さく笑う。


「陶殿。」


「私は敵の目で見ました。」


「だからこそ分かります。」


「この城は、落ちませぬ。」


しかし、本多はそこで留まらなかった。


空を見上げると、湿り気を帯びた風が山を吹き抜ける。


「もう間もなく梅雨が来る。」


「雨が降れば山道は閉ざされる。」


そう呟くと、本多は身支度を整えた。


今度は急がねばならない。


折鷹の策のもう一つの戦場――川之江では、那須資忠が十河・香川・安宅と対峙している。


本多は山寺を後にすると、梅雨入り前に川之江へたどり着くべく、伊予路を急いだ。

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