摂津の再会
永禄九年(1566年)正月。
毛利家への新年の使節を終えた佐野昌綱、陶晴賢、空蝉の一行は、無事に摂津・伊丹城へ帰還した。
長旅を終え、城下にもようやく穏やかな日々が戻る。
その数日後。
伊丹城へ二つの来客が訪れた。
一つは西国から。
もう一つは東海道からであった。
まず城門へ現れたのは、三十余名の武士たちである。
先頭に立つ男が静かに名乗った。
「問田隆盛にございます。」
「杉重盛にございます。」
「晴賢様ご生存の報を聞き、旧臣一同、馳せ参じました。」
陶晴賢は自ら城門へ赴く。
かつて周防・長門で苦楽を共にした家臣たちが、そこにいた。
互いにしばらく言葉は出ない。
やがて問田が膝をつく。
「殿……。」
「もう一度、お仕えさせてくだされ。」
杉も深々と頭を垂れる。
「今度は国のためではなく、殿のお志のために命を懸けます。」
陶は一人ひとりの顔を見渡した。
「皆、よく生き延びてくれた。」
「だが、今日より我らは大内家の家臣ではない。」
「佐野殿、小田家の旗の下で、人を守るために働く武士だ。」
「それでもよいか。」
三十余名の声が揃う。
「はっ!」
陶は静かにうなずいた。
「ならば新たな門出だ。」
「問田。」
「今日より、お前は問田重晴と名乗れ。」
「私の『晴』の一字を授ける。」
問田は畳へ額をつけるほど深く礼をした。
「一生の誉れにございます。」
陶は続いて杉を見る。
「杉。」
「今日より、お前は杉賢盛。」
「私の『賢』を託す。」
杉もまた深々と頭を下げた。
「命ある限り、この名を辱めませぬ。」
佐野昌綱はその光景を静かに見守り、小さくうなずいた。
「これで西国にも、頼れる仲間が増えましたな。」
その頃。
もう一人の客人が伊丹城へ到着していた。
本多正信のもとへ案内された男は、礼儀正しく一礼する。
「石川数正にございます。」
本多は目を丸くした。
「石川殿……。」
数正は穏やかに笑う。
「長く考えた末の決断です。」
「新たな世を築こうとする那須殿のお力になりたく、参りました。」
本多はすぐに那須資忠を呼ぶ。
那須は数正の姿を見ると、力強く手を差し伸べた。
「よく来てくださった。」
数正もその手を取り、深く頭を下げる。
「未熟者ではございますが、お役に立てるよう尽くします。」
那須は笑みを浮かべた。
「歓迎しよう。」
「これよりは同志だ。」
こうして摂津には、陶晴賢の旧臣団と、新たな志を抱いて訪れた石川数正という二つの新しい力が加わった。
伊丹城は、東国・畿内・西国の人材が集う、新たな時代の中心となりつつあった。




