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小貝川の教訓、恋瀬川の備え

小貝川防衛戦から数日後。

諸将は小田城へ帰参し、病床の小田政治に代わって若き当主・氏治のもとに集まった。

大広間には、小田、宇都宮、結城、小山、鹿島、宍戸、大掾の諸将が顔を揃える。

氏治は上座を降りると、まず深々と頭を下げた。

「皆様、このたびは小田家のために力をお貸しいただき、誠にありがとうございました。」

「私一人では、この戦を乗り切ることはできませんでした。」

「皆様が友として駆けつけてくださったからこそ、小田は守られました。」

諸将は静かに頷く。

青鬼・は笑みを浮かべた。

「礼には及ばぬ。友とはそういうものよ。」

やがて評定が始まる。

総評を任された尚綱は、地図を前に語り始めた。

「今回の戦、小田方は終始受け身であった。」

「小貝川を要害として守り、敵を渡らせず、兵の損耗も最小限に抑えた。」

「これは見事な采配である。」

「しかし、わしが佐竹なら、別の見方もする。」

場が静まり返る。

「小田は守りは堅い。」

「だが、自ら大きく打って出る軍ではない、と読むかもしれん。」

「本気で攻めるなら、さらに兵を集め、兵糧を整え、一気に押し潰そうと考えるであろう。」

氏治は黙ってその言葉を受け止めた。

そして静かに立ち上がる。

「尚綱殿のお言葉で、一つ確信いたしました。」

氏治は地図の小貝川から西へ指を滑らせる。

その指は、で止まった。

「次の佐竹は、小貝川へは来ません。」

「今回、小貝川が攻めにくいことを十分知ったはずです。」

「本攻めとなれば、より渡河しやすい恋瀬川方面を迂回してくる可能性が高いと考えます。」

結城、小山、鹿島、宍戸、大掾の諸将も地図を見つめ、静かに頷いた。

氏治は続ける。

「まず恋瀬川一帯を調査します。」

「渡河点、街道、丘陵、湿地、伏兵に適した地形まで詳しく記録してください。」

「治彦、その記録と地図の作成を頼む。」

「承知いたしました。」

氏治はさらに命じる。

「恋瀬川は第二の防衛線とします。」

「渡河点には土塁、逆茂木、見張り所、兵糧庫、火薬庫を備えた前線拠点を築きます。」

「小田城との街道も整備し、急使や狼煙による連絡網を常設します。」

宍戸は頷いた。

「工兵は普請に取り掛かりましょう。」

大掾も応じる。

「兵站は私どもが支えます。」

しかし氏治には、もう一つ構想があった。

「橋は落としません。」

諸将が驚く。

氏治は静かに説明した。

「敵は渡れない場所ではなく、渡れる場所を探します。」

「ならば、こちらが渡る場所を決めます。」

「要塞の正面には、あえて仮設の橋を架けます。」

「敵はその橋を渡れば突破できると思うでしょう。」

氏治は橋の南側を指した。

「橋を渡った先は、土塁、柵、逆茂木で固めます。」

「正面からは鉄砲と弓。」

「側面には槍隊を伏せます。」

「敵は自ら、こちらが最も戦いやすい場所へ踏み込むことになります。」

宇都宮尚綱は豪快に笑った。

「敵を止めるだけではない。」

「敵の進む道まで決めるか。」

「なるほど、それなら敵は攻めているつもりで、いつの間にか氏治殿の描いた戦場へ誘い込まれる。」

氏治は静かに頷いた。

「守るだけでは、いずれ押し切られます。」

「だからこそ、敵の動きをこちらが支配します。」

「小貝川の戦いは終わりました。」

「ですが、本当の戦いはこれからです。」

評定の間に集った諸将は、一斉に頷いた。

若き当主・氏治は、小貝川の勝利に満足することなく、その教訓を次の戦へつなげようとしていた。

坂東の守りは、小貝川から恋瀬川へ。

小田家の新たな防衛構想は、この日、小田城で動き始めたのである。

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