↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
481/1028

窺虎の計 ―― 学友からの便り

長宗我部の支城を遠巻きに眺め、その構えと街道の様子を十分に見届けると、三人は顔を見合わせた。


陶晴賢が静かに言う。


「これ以上は目立つ。」


「一度散ろう。」


那須も頷く。


「寺で落ち合う。」


本多正信は笑みを浮かべた。


「では私は市を回ります。市ほど情報の集まる場所はありません。」


三人は巡礼の姿のまま、それぞれ別々の道を歩き始めた。



---


それから、およそひと月。


永禄八年十月。


土佐の港へ、一隻の大きな船がゆっくりと入港した。


黒々とした船体。


高い帆柱。


遠目にもただの廻船ではない。


坂東で建造された坂東ガレオンであった。


積荷は塩、干魚、布、薬種、酒。


商船として寄港した体裁である。


那須が港を歩いていると、一人の商人が大きな荷を抱えて近寄ってきた。


「旦那、旦那。」


「今日は安うしときます。」


「干し柿に干し肉、味噌、それに団子までありますぞ。」


那須は顔をしかめた。


「いや、一人では食べきれん。」


商人はなおも食い下がる。


「旅には保存食です。」


「損はさせません。」


その声を聞いた瞬間。


那須は思わず吹き出した。


「……鹿島。」


商人は肩をすくめ、帽子を少し上げる。


そこにいたのは、学友の鹿島政清だった。


「気づくのが遅いですよ。」


「立派な商人になったでしょう?」


那須は笑いながら荷を受け取る。


「押し売りとは商売が上手くなったものだ。」


鹿島は小声で囁く。


「中をご覧になるのは寺へ戻ってから。」


「私はすぐ港を離れます。」


「では。」


何事もなかったように鹿島は人混みへ消えていった。



---


那須は宿としている寺へ戻る。


そこには陶晴賢と本多正信が待っていた。


「何を買ってきた。」


陶が笑う。


那須は荷を広げる。


干し肉、味噌、干し柿、薬草、干魚。


旅にはありがたい品ばかりだった。


その底から、一通の文が現れる。


本多が障子を閉める。


陶が火鉢を寄せる。


那須は封を切り、静かに読み始めた。



---


『学友より』


長宗我部は四国にて勢いを増しつつあり。


されど、その国力はいまだ十分とは言い難し。


従来、土佐の木材は三好家を通じて京へ売り出されるを常とせしが、三好没落の後、その販路を失えり。


木材は山に積まれ、商人は行き場をなくし、国の収入は細る。


その窮を補わんがため、近年は戦による領土拡大へ目を向けている節あり。


敵は強し。されど、その強さの裏には焦りもまた見ゆ。


旅の無事を祈る。


追伸、補給物資を少々送る。腹を空かせて倒れるな。


――鹿島政清



---


文を読み終えると、静寂が流れた。


陶晴賢がゆっくり頷く。


「なるほど……。」


「戦好きだから戦っているのではない。」


本多正信も続ける。


「戦わねば国が立ちゆかぬのです。」


「販路を失った結果、外へ活路を求めている。」


那須は文を丁寧に畳み、荷の中の干し柿を一つ手に取った。


「鹿島らしい。」


「補給だけでなく、国の急所まで送ってきた。」


陶は静かに笑う。


「よい学友を持ったな。」


正信も頷く。


「敵を倒す前に、敵がなぜ戦うのかが見えてきました。」


三人は地図を広げる。


長宗我部の敵は、阿波や伊予だけではない。


「販路を失った土佐」という現実そのものが、元親を戦へと駆り立てているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。