金毘羅の別れ
九月。
戦後の沙汰を終えた一行は、再び金毘羅へ集まっていた。
ここで松永久秀は淡路へ戻り、那須資忠や陶晴賢らは阿波に残る。
境内には秋の風が吹き抜け、束の間の静けさが流れていた。
松永久秀は佐野や那須の前へ歩み出る。
「それでは、わたくしは約束どおり淡路へ戻ります。」
「阿波も讃岐も、まずは落ち着きました。」
「一条殿も、これよりは皆様のお力でお支えくだされ。」
佐野は頷く。
「四国の門は、引き続き頼みます。」
「承知いたしました。」
そう答えた久秀は、ふと思い出したように笑った。
「ああ、そうでした。」
「一人、ご紹介したい者がおります。」
背後から一人の若い武士が静かに進み出る。
派手な身なりではない。
しかし、その目だけは油断なく人を観察していた。
久秀が紹介する。
「本多正信と申します。」
「三河一向宗の門徒として大和まで参り、生駒山でも働いた男でございます。」
「その後は諸国を放浪しておりましたが、ちょうど淡路へ参っておりましてな。」
「話をしてみれば、なかなか見どころがございました。」
正信は静かに一礼する。
「本多正信にございます。」
「未熟者ではございますが、お見知りおきください。」
久秀は扇を閉じる。
「まだ若い男ですが、戦よりも人を見る目に長けております。」
「武より知恵を使う方でございましょう。」
そして那須へ向き直った。
「正信が申すには──。」
「『那須殿にお仕えしたい。』」
那須は思わず目を丸くする。
「私にか?」
正信は真っ直ぐ答えた。
「はい。」
「生駒山でのお働きを拝見し、この方なら命を預けられると思いました。」
「私は武勇では敵いません。」
「ですが、人や物、策を整えることなら、お役に立てると存じます。」
しばらく考えた那須は、小さく笑った。
「私は細かな政は得意ではない。」
「それでも構わぬか。」
「望むところにございます。」
正信は深く頭を下げた。
その様子を見ていた陶晴賢は穏やかに頷く。
「よい組み合わせだ。」
「那須は真っ直ぐ進む将。」
「本多はその脇を固める参謀となろう。」
久秀も満足そうに笑う。
「それでは安心して淡路へ帰れますな。」
「正信。」
「那須殿によくお仕えするのですよ。」
「はっ。」
本多正信は改めて那須へ向かって深々と一礼した。
こうして放浪を終えた若き本多正信は、那須資忠の家臣として四国に身を置くこととなり、松永久秀はその姿を見届けると、潮風の待つ淡路へ向けて静かに船を出した。




