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讃岐の三将

金毘羅での軍議を終えた三人は、翌日には讃岐へ向かった。


「使者を出して呼びつけるなど、佐野殿ならばなさらぬ。」


松永久秀は笑う。


「会いたければ、こちらから行けばよい。」


那須も笑みを浮かべた。


「その方が早いですね。」


陶も静かに頷く。


「豪胆なお二人らしい。」


三人は供も最小限に抑え、そのまま讃岐の城へ乗り込んだ。


知らせを受けた香川、十河、安宅の三将は驚いたものの、すぐに広間へ姿を現す。


香川が最初に口を開いた。


「これは松永殿。」


「まさか御自ら来られるとは。」


松永は豪快に笑う。


「堅苦しい挨拶は抜きだ。」


「今日は昔話ではなく、これからの話をしに来た。」


席に着くと、まず香川が深く頭を下げた。


「その前に、一つ申し上げねばなりませぬ。」


「近頃は長宗我部の越境が激しくなっております。」


十河も続ける。


「兵だけではありませぬ。」


「調略の使者も日に日に増えております。」


安宅は苦笑した。


「『こちらへ来れば所領を与える』などと、なかなか景気のよい話ばかりです。」


松永は静かに頷いた。


「だろうな。」


香川は真顔になった。


「しかし、我らが持ちこたえておられるのは、松永殿のおかげです。」


「淡路から絶えず兵糧や塩を送ってくださる。」


十河も続ける。


「海へ出れば松永殿の船がおります。」


「長宗我部も海からは容易に手を出せませぬ。」


安宅も深く頭を下げた。


「皆、感謝しております。」


松永は照れくさそうに手を振った。


「礼などよい。」


「瀬戸内は皆で守るものだ。」


「一人沈めば、次は隣が沈む。」


「それだけのことよ。」


場の空気が和らぐ。


そこで松永は隣の二人へ目を向けた。


「紹介しよう。」


「こちらは坂東小田家の重臣。」


「那須資忠殿。」


那須は静かに立ち上がり、一礼した。


「那須資忠にございます。」


「佐野昌綱様の命を受け、四国の情勢を見に参りました。」


その名に三将の表情が変わる。


畿内の戦を耳にしていた彼らにとって、佐野の腹心が四国へ来た意味は決して小さくなかった。


松永は続ける。


「そして、こちらは……。」


陶は一歩前へ出て静かに頭を下げる。


「住吉晴賢と申します。」


「那須様の案内役として、瀬戸内を共に旅しております。」


穏やかな物腰。


落ち着いた口調。


誰も、その男がかつて中国地方を震わせた陶晴賢その人だとは思わない。


香川は笑顔で頷いた。


「住吉殿。」


「瀬戸内に詳しい方がおられるなら心強い。」


陶は柔らかく微笑む。


「旅慣れているだけでございます。」


「どうぞ、そのようなお気遣いなく。」


那須は横目で陶を見た。


表情一つ変えず偽名を名乗る姿は、まさに別人であった。


松永だけが、その様子を見て小さく笑みを浮かべる。


――まだ名乗る時ではない。


その札は、四国を動かす最後の一枚。


今はまだ、伏せておくべき切り札であった。


広間には静かな緊張と期待が満ち、四国の新たな均衡をめぐる話し合いが、いよいよ始まろうとしていた。

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