↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
467/1023

金毘羅に届く風聞

夏の日差しが瀬戸内を照らしていた。


那須資忠と陶末晴は小舟を降り、讃岐の地を踏む。


二人の懐には河内国主・篠原長房が認めた紹介状が収められていた。


まず二人が向かったのは、海の守り神として名高い金毘羅の寺院である。


「ここならば、旅人も船乗りも集まる。」


「天下の風聞を聞くには最もよい場所でしょう。」


陶の言葉に、那須は静かに頷いた。


寺では篠原の紹介状を見た住職が丁重に二人を迎え入れた。


「河内の篠原殿のご紹介でございましたか。」


「どうぞごゆるりとお過ごしくだされ。」


夕刻。


読経を終えた住職は、旅人たちとともに夕餉を囲みながら語り始めた。


「お二人は畿内より参られたのでしたな。」


「それでは、この吉報も耳にされましたかな。」


那須は首を横に振る。


「いえ、船旅を急ぎましたゆえ。」


住職は嬉しそうに頷いた。


「では、お伝えしましょう。」


「頼光公の再来とまで称えられる佐野昌綱殿が、故将軍足利義輝公の妹君・千陽様と住吉大社にて婚儀を挙げられました。」


その場にいた旅人たちも次々とうなずく。


「聞いた聞いた。」


「畿内中から祝いの使者が集まったそうじゃ。」


「戦が終わって初めて都中が笑顔になったという。」


「寺社も商人も武家も皆祝い申したとか。」


住職は感慨深げに続けた。


「佐野殿は戦では鬼神。」


「されど勝てば敵味方なく救い、寺社を復興し、町を栄えさせる。」


「今では坂東武者というより、源頼光公の再来と語る者も少なくありませぬ。」


那須は静かに盃を置いた。


「……佐野様らしい。」


陶は小さく笑う。


「本人が聞けば困った顔をするでしょうな。」


「英雄などと呼ばれることを、最も嫌うお方です。」


「ははは。」


住職は笑いながら頷いた。


「確かにそのようなお人柄と聞きます。」


「されど世は英雄を欲します。」


「しかも将軍家の姫君を迎えられたことで、人々は新しい世が始まると期待しておるのでしょう。」


那須は障子の向こう、夜の讃岐の空を見上げた。


畿内はもう安心だ。


佐野昌綱がいる。


ならば、自分の務めは一つ。


四国に、新たな均衡を築くこと。


「陶殿。」


「明日は河野殿のもとへ参りましょう。」


陶は静かに頷いた。


「ああ。」


「今度は我らが、西国の未来を動かす番だ。」


金毘羅の鐘が、静かな夜の山々へと響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。