迎賓館落成
迎賓館落成
春も深まった頃、伊丹城では長らく改修が進められていた迎賓館が完成した。
佐野は披露を兼ね、細川、一色、筒井順慶、下間頼廉、今井宗及ら親しい者たちを招いた。
千陽もまた、足利家の姫として正式に席に着く。
館の中央には静かな日本庭園が広がり、それを囲むように長い回廊が巡っている。
回廊には茶席や囲碁を楽しむ座敷が設けられ、床の間には坂東の鼈甲細工や象牙細工、南海からもたらされた珍品が飾られていた。
その日焚かれていた香は、穏やかな白檀である。
庭を眺めながら茶を楽しむ者。
囲碁を打ちながら談笑する者。
池のほとりを歩き、静かに商談を交わす商人。
武将同士も肩肘張ることなく、回廊を歩きながら近況を語り合っていた。
順慶は思わず感心する。
「城とは思えませぬな。」
「まるで一つの町のようです。」
佐野は微笑んだ。
「人が一室に集まれば息苦しい。」
「歩けば違う人と出会い、違う話が聞ける。」
「この回廊は、人と人を結ぶ道なのです。」
千陽は静かにその光景を見つめていた。
そこには怯えた顔も、怒号も、剣を抜く者もいない。
公家も僧も、武士も商人も、同じ庭を眺めながら穏やかに笑っている。
ふと庭の奥を見ると、小さな広場があった。
舞台を設けられるほどの開けた場所で、周囲には腰掛けも並べられている。
宗及が説明する。
「佐野様は、ここで季節ごとの催しを開くおつもりです。」
「茶会だけではなく、歌会、囲碁大会、子どもたちの遊び、芸能の披露など、人々が集える場にしたいと。」
千陽は驚いた。
(……この場所は。)
祭りの賑わいを好んだ自分のことを、佐野は覚えていてくれたのだ。
戦で荒れた都では叶わなかった、人々が笑って集う景色。
それを、この城に作ろうとしている。
千陽は胸の奥が熱くなるのを感じながら、そっと庭を見つめた。
(兄上……。)
(この方は、本当に平和を築こうとしているのですね。)
その日初めて、千陽は新しい住まいを「身を寄せる城」ではなく、未来を育む場所として見るようになった。




