崩れぬ壁
高屋の市街は、いつしか戦場ではなく迷路となっていた。
畠山軍は何度も突撃を繰り返す。
そのたびに佐野隊は正面から斬り込み、敵の隊列を乱しては後退する。
「追え! 佐野を討ち取れ!」
怒号とともに兵が押し寄せる。
しかし曲がり角を抜けるたび、新たな障害物が現れた。
荷車。
倒された材木。
崩された石垣。
狭い道はわずか数人しか並べず、数に勝る畠山軍は兵力を活かせない。
「撃て!」
乾いた銃声が響く。
坂東長筒が火を吹き、弓隊の矢が降り注ぐ。
先頭の兵が倒れると後続は足を止めざるを得ない。
そこへ再び佐野隊が飛び込み、一気に斬り崩す。
「退け!」
号令一下、抜刀隊は乱れぬまま後退する。
畠山方の武将は歯噛みした。
「なぜ崩れぬ!」
「何度押しても同じだ!」
その頃、町外れでは篠原長房が静かに戦況を見つめていた。
「北の路地に敵三百。」
「西は二百。」
「……来たか。」
畠山軍は正面突破を諦め、裏道から回り込もうとしていた。
「第一備え、前へ。」
篠原の命で伏せていた兵が一斉に姿を現す。
槍衾が狭い路地を塞ぎ、敵を迎え撃つ。
「押し返せ!」
篠原自身も槍を執り、最前列へ立った。
激しい槍合わせが始まる。
敵は何度も突破を試みたが、そのたびに押し返される。
篠原は深追いをしない。
敵を退けると再び元の位置へ戻り、防御陣を立て直した。
「守りとは勝つことではない。」
「崩れぬことだ。」
その言葉どおり、篠原の陣は岩のように動かなかった。
一方、高台では松永久秀が腕を組み、戦場を眺めていた。
家臣が焦りを隠せず進言する。
「殿、敵は疲れております。今こそ突撃を。」
久秀は静かに首を振る。
「いや。」
「疲れただけでは退かぬ。」
「人は勝ったと思った時にだけ隙を見せる。」
彼の視線は高屋城へ続く街道から一度も離れない。
「あそこを通る時が来れば……その時が終わりだ。」
遠く、市街では再び鬨の声が響いた。
戦はなお膠着している。
しかし、その均衡こそが佐野の望んだ戦場であった。




