高屋市街戦
翌朝、高屋の空には重く雲が垂れ込めていた。
夜明けとともに畠山軍は進軍を開始する。
「佐野勢は退いたぞ!」
「一気に押し潰せ!」
守護再興の旗を掲げた大軍は、高屋の市街へ向かって怒涛の勢いで押し寄せた。
一方、町は静まり返っていた。
人影はなく、戸は固く閉ざされ、まるで無人の町である。
その静寂を切り裂くように、一団の旗が翻った。
「敵だ!」
先頭に立つのは佐野昌綱。
その後ろには抜刀隊の精鋭が続く。
「抜けるぞ!」
佐野が一気に駆ける。
畠山軍も槍を揃えて迎え撃つ。
しかし次の瞬間。
白刃が閃いた。
佐野は真正面から敵陣へ飛び込み、槍をかわして一人、二人と斬り伏せる。
抜刀隊もその後に続き、狭い街路を駆け抜ける。
町中では長槍は振るいにくい。
隊列は崩れ、前後の連絡も乱れ始める。
「追え!」
畠山軍はなおも勢いに任せて押し込む。
佐野隊は戦いながら少しずつ後退し、敵をさらに町の奥へ誘い込んだ。
その直後だった。
「今だ!」
下間頼廉の声が響く。
待ち構えていた兵が荷車を押し倒し、丸太を転がし、木戸を閉める。
狭い道は次々と塞がれ、敵の進軍速度が急激に落ちる。
「撃て!」
乾いた銃声が市街に轟く。
坂東長筒と弓が一斉に火を噴いた。
動きを止められた畠山軍へ矢と弾丸が降り注ぐ。
「盾を前へ!」
「押し通れ!」
敵も必死に押し返す。
荷車をどかし、障害物を壊しながら前進するが、そのたびに次の街角には新たな障害物が築かれている。
頼廉は最前線へ出ることなく、市街全体を見渡しながら兵を動かした。
「急ぐな。」
「敵を止め続けよ。」
その頃。
篠原長房は裏道を巡り、横町という横町へ兵を伏せていた。
「敵に回り込ませるな。」
「もし突破されたなら、その場で迎え撃て。」
篠原は守りの切り札として、市街全体の均衡を保ち続ける。
一方、松永久秀はなお動かなかった。
丘の上から高屋城への街道を眺めながら、静かに敵の動きを見つめている。
家臣が焦れたように言う。
「殿、今なら敵の横腹を突けます。」
久秀は首を横に振る。
「まだ早い。」
「佐野殿は敵を勝たせようとしている。」
「勝ったと思わせねば、この戦は終わらぬ。」
久秀は扇を閉じ、遠く市街から響く鬨の声に耳を澄ませた。
戦場はまだ、佐野の描いた筋書きどおりに動いていた。




