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第三十一章 四将、役を定む

佐野昌綱は高屋城近くから軍を退かせると、高屋の市街にある古刹を本陣と定めた。


境内には疲労の色を隠せぬ兵が整然と並び、本堂には河内一帯の絵図が広げられる。


ほどなくして篠原長房、下間頼廉、松永久秀が姿を現した。


四人は互いに一礼すると、本堂の戸は閉められ、軍議が始まる。


佐野は静かに口を開いた。


「敵は我らより多い。」


「だが、それだけだ。」


その一言に三人は顔を上げる。


「こちらは連戦続きゆえ兵数は少ない。しかし残っているのは皆、戦を潜り抜けた精鋭である。」


佐野は軍配で高屋の市街をなぞった。


「野で押し合えば敵の思う壺だ。」


「ならば町で戦う。」


誰一人として異を唱えない。


佐野はまず自らの役目を示した。


「私が先鋒となる。」


「抜刀隊を率いて敵陣へ斬り込み、敵の隊列を乱す。」


「深追いはせぬ。混乱を広げながら市街へ退く。」


続いて下間頼廉へ向き直る。


「頼廉殿は次鋒。」


「私を支えながら後退し、荷車、木材、石垣を使って次々と道を塞げ。」


「敵を止め、鉄砲と弓で撃ち続けよ。」


頼廉は静かに合掌した。


「承知いたしました。敵の勢いを削ぎ、町もお守りいたします。」


佐野はさらに篠原長房を見る。


「長房殿。」


「あなたは守りの切り札だ。」


「敵が横道や裏道から回り込もうとするならば、それを防いでほしい。」


「戦場を見て、守りが崩れると判断したなら、私の命を待たず兵を動かして構わぬ。」


「この戦で最も大切なのは、市街の形を崩さぬことだ。」


篠原は深く頷いた。


「河内の道は知り尽くしております。守るべきところは必ず守り抜きましょう。」


最後に佐野は松永久秀へ視線を移す。


「久秀殿。」


「あなたは攻めの切り札だ。」


久秀は口元に笑みを浮かべた。


「ようやく私の出番ですかな。」


「いや。」


佐野は首を横に振る。


「まだだ。」


「最後まで動くな。」


その言葉に久秀の笑みはさらに深くなる。


「敵が我らを破ったと思い、高屋城へ引き返した、その瞬間。」


「その時、あなたは一気に高屋城との間へ割り込み、退路を断て。」


「敵を討つのではない。」


「逃げ道を奪うのだ。」


久秀は静かに扇を閉じた。


「承知いたしました。」


「最後の一手は、お任せください。」


佐野は三将を見渡す。


「私は敵を乱す。」


「頼廉殿は敵を止める。」


「長房殿は戦場を守る。」


「久秀殿は勝負を決める。」


「四人が役目を果たせば、この兵数差は覆せる。」


堂内は静まり返っていた。


やがて篠原がゆっくりと立ち上がる。


「河内は、必ず取り戻します。」


頼廉も静かに念仏を唱え、久秀は不敵に笑う。


佐野は軍配を握り直し、ただ一言だけ告げた。


「では参ろう。」


四将は本堂を後にした。


秋風が寺の鐘楼を吹き抜け、高屋決戦の時が静かに近づいていた。

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