九月、坂東と伊勢の風
九月に入ると、伊丹城には各地から祝いと援助の一団が続々と到着した。
先頭を切って現れたのは、築城奉行・宍戸政繁である。
その後ろには大工衆、石工、木挽、鍛冶らが続き、城普請に必要な道具を荷車いっぱいに積み込んでいた。
宍戸は佐野の前へ進み出ると、一礼した。
「氏治様より申し付けられました。伊丹城普請、ならびに城下町の整備が一段落するまで、この宍戸政繁、築城奉行としてお仕えいたします。」
佐野は深く頷いた。
「遠路ご苦労であった。摂津の礎を共に築こう。」
その数日後には、笠間幹永が坂東馬の群れを率いて到着する。
良馬に加え、馬方や牛飼も同行していた。
「私は一年限りの寄騎にございます。」
笠間は笑みを浮かべる。
「氏治様より、坂東馬をこの地に根付かせよとの命を受けて参りました。」
さらに笠間は、新田から託された祝いの品を披露した。
箱を開くと、中から数組のつがいの鷹が姿を現す。
「大内宿や尾瀬で育てられた鷹でございます。新田殿が『祝いには国を豊かにするものを』と、鷹匠ごと預けてくださいました。」
佐野は鷹を見上げ、小さく微笑んだ。
「これほどの祝いはあるまい。」
鷹は武家の誇りであると同時に、公家にも愛される雅な文化であった。
やがてその鷹匠たちは、摂津に新たな鷹狩の文化を根付かせることになる。
そして月の半ばには、北畠具教に呼び寄せられた北畠一族も伊丹へ姿を現した。
一族は武士だけではない。
宮大工。
刀鍛冶。
神職。
文官。
寺社建築に携わる職人たち。
それぞれが己の技を携え、新しい国づくりのために集まってきたのである。
佐野は城門に立ち、一人ひとりを迎えた。
摂津はもともと天下有数の豊かな国であった。
港があり、街道があり、市が立ち、人が集う。
そこへ坂東の実務と伊勢の伝統、そして各地から集まった職人たちの技が加わる。
戦に勝っただけでは終わらない。
この秋、伊丹では「佐野らしい国づくり」が静かに始まろうとしていた。




