伊丹城評定
伊丹城へ入城して間もなく、佐野昌綱は初めての評定を開いた。
集まったのは北畠具教、一色藤長、下間頼廉、空蝉ら重臣である。
佐野は上座から一同を見渡すと、静かに口を開いた。
「戦は終わった。今日よりは国を治めることが我らの務めだ。まずは急ぐべきことを決めよう。」
最初に命じたのは、城の総点検であった。
「北畠殿、一色殿。伊丹城の明け渡しを確認し、兵糧・武具・蔵の中身を余すところなく調べてくれ。不足や横流しがあれば、遠慮なく報告せよ。」
「承知。」
北畠と一色は同時に頭を下げる。
続いて佐野は北畠へ向き直る。
「それともう一つ。当家は人手が足りぬ。」
具教は苦笑した。
「まさしく、そのことを申し上げようとしておりました。」
「北畠一族のうち、政務や礼法、算用に秀でた者がおれば呼び寄せてほしい。武だけでは国は治まらぬ。」
「お任せください。一族へ書状を送りましょう。」
最後に、頼廉へ視線を向ける。
「頼廉殿。本願寺にもお願いがある。」
頼廉は静かにうなずいた。
「法主様も同じことを案じておられます。」
数日後。
頼廉に付き添われ、療養中の顕如が伊丹城を訪れた。
歩くこともままならず、近習と頼廉に支えられながらの対面であった。
佐野は深く一礼する。
「このようなお身体でお越しいただき、恐れ入ります。」
顕如は穏やかに首を振る。
「佐野殿の新たな国づくりゆえ、一度は自ら礼を申したかった。」
佐野は率直に切り出した。
「実は、当家には武士はいても、国を動かす官僚が決定的に足りませぬ。」
顕如は頼廉と顔を見合わせ、静かに微笑んだ。
「頼廉から聞いておる。本願寺には寺務、算用、文書、普請に通じた者がおる。望むならば、しばらく佐野殿のもとへ出向させよう。」
頼廉も続ける。
「政は人あってこそ成り立ちます。寺侍や坊官の中から、実務に長けた者を選びお連れいたしましょう。」
佐野は深く頭を下げた。
「ありがたきこと。この国は武だけでなく、政によって豊かにしてみせます。」
こうして伊丹城の評定は終わり、城の整備は北畠・一色が担当し、北畠一族の招聘、本願寺からの官僚出向という二つの柱が決まった。摂津統治の基盤は、この評定から築かれていくこととなる。




