摂津守護、伊丹へ
永禄八年、幾多の戦乱を経て、佐野昌綱は摂津一国を預かることとなった。
居城に選んだのは伊丹城である。
しかし佐野は、この城を戦のためだけの城とはしなかった。いずれ本丸は気比神宮の分社「気比摂津神社」とし、千陽の御所を兼ねる新たな都とする構想を胸に秘めていた。
まずは城の大広間に、これまで苦楽を共にした者たちを集めた。
北畠具教、空蝉、下間頼廉、一色藤長、細川の旧臣、山城衆、本願寺衆、そして儀仗抜刀隊。
佐野は静かに一礼する。
「皆のお力がなければ、私は今日ここに立つことはできませんでした。この勝利は、私一人のものではありません。皆で得た平和です。本当にありがとうございました。」
大広間はしばし静まり返り、やがて深く頭を下げる者が続いた。
その時、水戸頼家が一歩前へ出る。
「佐野殿。」
佐野が顔を上げる。
「わしの役目はここまでだ。儀仗抜刀隊はそなたに預ける。わしは坂東へ帰る。」
広間に小さなどよめきが走る。
水戸は穏やかに笑った。
「氏治様もお待ちだ。それに、坂東にも育てねばならぬ若者がおる。これからは、おぬしが畿内を背負え。」
佐野は言葉を失った。
京へ来て以来、常に隣で導いてくれた上官であり、兄のような存在だった。
やがて深く頭を下げる。
「……ありがとうございました。私は必ず、この地を守り抜きます。」
水戸は佐野の肩を軽く叩いた。
「そういう顔ができるようになった。もう心配はいらん。」
その傍らで北畠具教が静かに口を開く。
「私は残ろう。北畠の家は既に伊勢を失った。ならば、この摂津を新たな故郷とし、佐野殿を支えたい。」
佐野は力強くうなずいた。
「よろしくお願いいたします。」
こうして水戸は坂東へ帰還し、北畠は摂津家中の重臣として佐野を支えることとなる。
畿内の新たな時代は、ここ伊丹から静かに始まろうとしていた。




