八月・伊丹城評定 ― 畿内新体制
飯盛山城、伊丹城の戦いからひと月。
戦火に焼かれた畿内も、ようやく蝉の声が戻り始めた八月。伊丹城の大広間には、小田氏治をはじめ、畿内平定に功のあった諸将が一堂に会した。
氏治は開口一番、こう告げた。
> 「今日の評定は恩賞のためだけではない。」
> 「戦に勝つより難しい、平和を築くための評定である。」
まず、足利の姫が柳生と空蝉に護衛され入室する。氏治は全員に起立を命じた。
> 「将軍家は滅びてはおらぬ。」
> 「姫は足利家の御血筋である。」
氏治は姫へ頭を下げた。
> 「まだ十六歳。」
> 「婚姻は急がせぬ。」
> 「誰と生涯を歩むかは、ご自身でお決めいただきたい。」
そして続けた。
> 「それまでは佐野昌綱の庇護下に置く。」
> 「義輝公の遺志を継ぎ、その身を守れ。」
佐野は静かに拝礼した。
> 「命に代えましても。」
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続いて恩賞が始まる。
氏治は松永久秀を前へ呼ぶ。
> 「飯盛山城攻略、第一の功は松永久秀である。」
家臣が黒漆塗りの箱を運ぶ。
中には坂東製の最新兵器――ホイールロック式単筒が納められていた。
氏治は笑みを浮かべる。
> 「これは余ではない。」
> 「昌綱が『この銃は松永殿にこそふさわしい』と申して選んだものだ。」
松永はしばらく銃を見つめると、深々と礼をした。
> 「……この一挺は、一国にも勝る宝。」
そして自ら願い出た。
> 「旧領はすべて返上いたします。」
場内がざわつく。
> 「佐野殿、順慶殿へ分け与えてください。」
> 「私は淡路一国のみ賜り、海を守ります。」
氏治はうなずいた。
> 「許す。」
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次に佐野昌綱。
> 「畿内平定最大の功。」
> 「摂津一国を預ける。」
場内から大きなどよめきが起こる。
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篠原長房。
> 「早くから志を同じくし、畿内を支えた。」
> 「河内一国を預ける。」
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細川藤孝。
> 「山城を預ける。」
> 「京と朝廷を支えよ。」
藤孝は静かに拝礼した。
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氏治は一色藤長へ向く。
> 「一国を与えることもできよう。」
しかし首を振る。
> 「だが、それ以上に頼みたいことがある。」
> 「昌綱一人では摂津は広すぎる。」
> 「一色殿。」
> 「佐野の片腕となり、旧足利家臣との橋渡しを頼む。」
一色は深く頭を下げた。
> 「喜んでお受けいたします。」
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筒井順慶には大和。
下間頼廉には本願寺の政務。
顕如は宗主として信仰を司ることとなった。
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少弐冬明が呼ばれる。
> 「勝竜城を真壁とともに守り抜いた功。」
> 「さらに海商としての才を買う。」
> 「堺奉行を命ずる。」
冬明は笑みを浮かべた。
> 「商いにて畿内を支えましょう。」
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陶も前へ出る。
> 「真壁とともに勝竜城を守った。」
> 「よって勝竜城を預ける。」
陶は深く礼をした。
> 「必ず西の盾となります。」
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岩成友通が進み出る。
氏治は穏やかに告げた。
> 「旧領へ戻せば、そなたを旗印に争いが起こる。」
> 「それは民のためにならぬ。」
> 「会津へ所領を移す。」
> 「北の地で新たな国造りに力を貸してほしい。」
岩成は静かに頭を下げた。
> 「ありがたきご配慮。」
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最後に氏治は空蝉を呼ぶ。
> 「望みを申せ。」
空蝉は笑った。
> 「わしは武士ではありませぬ。」
> 「城も土地も望みませぬ。」
しばらく考え、静かに口を開いた。
> 「故郷・敦賀は朝倉と上杉の戦に呑まれようとしております。」
> 「願わくば、摂津に気比神宮の分社を建てとうございます。」
> 「女子どもや老人が避難できる場所として。」
氏治はためらうことなく答えた。
> 「よかろう。」
> 「佐野、その建立を頼む。」
佐野は深く頭を下げる。
> 「必ず。」
空蝉は目を閉じ、小さく礼をした。
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こうして八月の伊丹城評定は終わった。
戦乱で荒れ果てた畿内は、新たな統治のもと歩み始める。
摂津に佐野、河内に篠原、山城に細川、大和に筒井、淡路に松永久秀。
その傍らには一色藤長、下間頼廉、少弐冬明、陶らが支え、北には岩成友通が会津へ赴く。
そして摂津には、新たに気比神宮の分社が建立され、足利の姫は佐野の庇護のもとで静かに新たな時代を見つめることとなった。
この評定は後に「伊丹城評定」と呼ばれ、畿内の戦乱に終止符を打ち、武による征服ではなく、人を生かす統治の始まりとして語り継がれることになる。




