伊丹城開城
伊丹城開城
飯盛山城陥落の報は伊丹城にも届いた。
岩成友通はなおも城を守る将兵を前に静かに告げた。
「これ以上戦えば、摂津の民だけが苦しむ。佐野昌綱が来るまで待ち、その言葉を聞こう。」
数日後、佐野は真壁幹久とともに伊丹城へ到着した。
城中で降伏勧告が読み上げられ、岩成は静かに花押を据える。
その瞬間だった。
「飯盛山では皆殺しにされたぞ!」
「三好を討て!」
誰が叫んだかも分からぬまま、城内は一瞬で騒乱に包まれた。
飯盛山から逃れてきた敗残兵の噂は尾ひれが付き、三好方は降伏しても殺されると信じ込んでいた。一方、旧足利方にも三好への恨みを抑えきれぬ者がおり、双方が抜刀して乱戦となる。
「真壁殿、岩成殿を頼みます!」
佐野はそう叫ぶと、儀仗抜刀隊を率いて騒乱の中心へ飛び込んだ。
順慶の兵は道を封鎖し、下間頼廉率いる本願寺衆は双方を引き離す。
松永久秀と篠原長房も旧三好勢を必死に制止した。
それでも怒号は収まらない。
佐野は刀を抜く。しかし斬るためではない。
刃で受け、打ち、払い、柄で打って人を倒し、命までは奪わない。
「武器を捨てよ! 降伏は受け入れる! これ以上血を流すな!」
その声が戦場に響く。
さらに飯盛山で佐野に命を救われた細川藤孝と一色藤長が前へ進み出た。
「佐野殿の言葉は偽りではない!」
「我らが証人となる!」
二人の呼びかけに、旧足利方もようやく剣を収め始めた。
やがて乱戦は小競り合い程度で鎮圧され、伊丹城は静寂を取り戻した。
岩成友通は真壁に守られ無事であった。
岩成は佐野の前に進み、深く頭を下げる。
「すべては私の不徳。責任を取り、切腹いたします。」
しかし佐野は首を横に振った。
「違う。」
「飯盛山でも、伊丹でも、多くの命が失われた。だからこそ、生き残った命には意味がある。」
佐野は岩成の肩に手を置く。
「助かった命なのだ。」
「その命を、自分の罪を償うためではなく、この国のため、人々のために使え。」
岩成はしばらく顔を伏せていたが、やがて深く一礼した。
「……承知いたしました。」
こうして岩成友通は助命され、三好旧臣の代表として佐野の麾下に加わることとなる。
この助命は摂津・河内の旧三好勢に大きな衝撃を与え、「佐野は降伏した者を決して無闇に殺さない」という評判が畿内へ広がる契機となった。




