飯盛山城包囲戦
勝竜城逆包囲戦の敗北により、三好軍は大きく二分された。
岩成友通は残兵をまとめて伊丹城へ退き、これを真壁幹久率いる大和勢が包囲する。
一方、三好政康は飯盛山城へ退き、旧三好勢を率いて籠城した。
佐野昌綱は本願寺衆、山城衆、旧足利方を率いて飯盛山城を包囲する。
北畠具教は山城国の警備に、水戸頼家は奈良の守りに残され、畿内各地の治安維持にあたっていた。
飯盛山城は長年三好家の本拠として整備された難攻不落の山城である。幾重もの曲輪と急峻な斜面は正面攻撃を拒み、兵糧も十分に蓄えられていた。
佐野は城を見上げ、静かに言った。
「この城は力攻めでは落ちぬ。」
軍議の席で松永久秀が前へ進み出る。
「ならば、城ではなく足元を攻めましょう。」
久秀は古い縄張図を広げた。
「飯盛山城には二つの脱出口があります。一つは正門近く、もう一つは搦手です。私は築城に携わったゆえ、その位置を知っております。」
佐野は地図を見つめる。
「地下から攻めるということか。」
「左様。坑道へ火薬を運び込み、門の土台を破壊します。」
策は直ちに採用された。
しかし坑道を掘り進める音を城兵に悟られては意味がない。
そこで佐野は奇妙な命令を下した。
「河内、摂津、山城の里唄と童歌を集めよ。昼も夜も歌い続ける。」
最初、将兵たちは意味が分からなかった。
やがて数千人の兵と周辺の民が加わり、戦場は大合唱に包まれる。
河内の田歌。
摂津の舟歌。
山城の子守歌。
昼夜を問わず歌声は山々へ反響し、太鼓や鉦も加わって飯盛山を震わせた。
城兵は当初嘲笑した。
「敵は気でも狂ったか。」
しかし歌は何日も止まない。
眠れぬ夜が続き、故郷を思い出して涙する者、士気を失う者が現れ始めた。
そして何より、その大音響は地下から響く工兵たちの作業音を完全に覆い隠していた。
数日後、準備は整う。
まず正門側の坑道へ火が入れられた。
轟音とともに山が揺れる。
狙いは門の土台だけだった。
しかし火薬は予想以上の威力を発揮し、門は吹き飛ぶどころか地盤ごと陥没した。
巨大な穴へ櫓門が沈み込み、岩と土砂が流れ込む。
正門は完全に埋まり、敵も味方も通れない死地となった。
久秀は苦笑する。
「……少々、火薬が多すぎましたな。」
だが、同時に仕掛けた搦手の爆破は見事に成功した。
城壁の一角が崩れ、突破口が開く。
「今だ!」
下間頼廉が薙刀を掲げ、本願寺衆が一斉に突入する。
その後に旧足利方、山城衆が雪崩れ込み、飯盛山城はたちまち乱戦となった。
佐野は抜刀し、叫ぶ。
「降る者は助けよ! 無益な殺生はするな!」
しかし激戦の勢いは止まらない。
長年の怨恨を抱える兵たちは各曲輪で斬り結び、城内は修羅場となった。
佐野は細川家の一行を見つけると、自ら道を切り開いて救い出す。
続いて一色家、さらに松田一族も辛うじて城外へ避難させた。
だが、それ以上は救えなかった。
城の奥では、三好政康が最後まで兵をまとめて抗戦していた。
「三好は終わらぬ!」
その叫びも虚しく、本願寺衆と旧足利方に包囲され、激戦の末に討ち死にする。
こうして飯盛山城は陥落した。
一方、三好三人衆最後の一人である岩成友通は、すでに伊丹城へ退いており、真壁幹久の包囲を受けていた。
飯盛山の陥落は、畿内における三好政権崩壊の決定的な一撃となった。




