天王山、動く
佐野は軍議を終えると、ただちに諸将へ命を下した。
「松永殿、篠原殿。お二人には天王山をお任せします。」
松永久秀は驚いたように顔を上げる。
「このような手負いの軍を……信じてくださるのですか。」
佐野は静かに頷いた。
「だからこそです。今の松永隊は攻めるより守るほうが力を発揮する。天王山は決して落としてはならない。」
さらに篠原隊にも命を与える。
「松永殿と協力し、この山を守り抜いてください。」
二人は深く一礼した。
一方、佐野自身は本願寺勢の主力と儀仗抜刀隊を率い、勝竜城包囲の北側へ向けて進軍を開始する。
下間頼廉もまた本願寺勢を率いて佐野の隣に馬を進めた。
「まずは北から包囲を崩す。」
「真壁殿が城内から呼応すれば、必ず突破口は開ける。」
しかし、天王山にはもう一つの備えがあった。
山中に潜んでいた宍戸政繁が姿を現したのである。
「佐野様、準備はすべて整っております。」
宍戸は山肌に幾筋もの塹壕を掘り、土塁と木柵を築き、尾根ごとに鉄砲陣地を設けていた。
敵がどの道を登っても十字砲火を浴びるよう綿密に計算された防御陣である。
さらに驚くべきことに、兵糧、火薬、矢玉、予備の槍や鉄砲までもが山中各所へ分散して秘匿されていた。
洞穴、寺院の床下、岩陰、林の奥。
一か所を失っても全体が機能するよう工夫され、荷駄が絶たれても長く持久戦を続けられる備えとなっていた。
松永久秀は思わず息を呑む。
「……これほどとは。」
宍戸は静かに笑う。
「城を築く時間はありませんでした。ならば山そのものを城にしたまでです。」
天王山は、もはや単なる陣地ではない。
尾根も谷も森も、すべてが防御施設となり、一つの巨大な要塞へと姿を変えていた。
佐野はその堅固な守りを背に、下間頼廉、本願寺勢、そして儀仗抜刀隊を率いて北方から勝竜城包囲の打開へと動き出す。
勝竜城逆包囲戦、その火蓋はいま切って落とされようとしていた。




