山崎の膠着
勝龍寺城へ籠もった真壁幹久は、決して城を出ようとはしなかった。
三好長逸は力攻めを命じる。
しかし、城へ近づけば雑賀衆の鉄砲が火を噴く。
梯子を掛ければ矢と石が降り注ぎ、退けば城門が開いて鉄砲隊が一斉射撃を浴びせる。
わずかな兵でありながら、真壁は巧みに敵を寄せては退け、寄せては退けを繰り返した。
「敵は寡兵だ!」
三好政康は幾度も総攻撃を進言した。
だが岩成友通は慎重であった。
「城を落としても、その間に京が備える。」
三好長逸も決断を下せない。
三人の意見は毎日のように変わり、攻める日もあれば様子を見る日もあった。
その迷いこそが、真壁の望んだものであった。
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やがて十月になる。
北では佐野昌綱が儀仗抜刀隊を率いて京南の街道へ姿を現した。
南からは筒井順慶が大和勢を率い、淀川東岸へ進出する。
両軍は決して決戦を挑まない。
ただ三好軍を挟むように布陣し、その動きを静かに見据えていた。
「佐野が来たぞ。」
「筒井まで出てきた。」
その報せは三好本陣へ次々ともたらされる。
長逸は京を望み、順慶を睨み、そして勝龍寺城を見た。
前には真壁。
北には佐野。
南には順慶。
三方向から監視される形となり、大軍は自由に動けなくなっていた。
それでも時折、小競り合いは起こる。
雑賀衆が鉄砲を撃ち、三好勢が追う。
佐野の抜刀隊が街道へ進み出れば、三好勢も槍を揃えて応じる。
順慶の国衆が前へ出れば、弓矢が飛び交う。
しかし、いずれも本格的な戦には至らない。
誰も不用意に兵を失いたくはなかった。
京を目前にしながら、大軍は再び止まった。
秋は深まり、山崎の山々は紅く色づく。
やがて木々は葉を落とし、冷たい北風が吹き始める。
年の瀬も間近となった頃、三好三人衆は軍議を開いた。
長逸が静かに口を開く。
「……このままでは冬を越せぬ。」
政康も苦々しく頷いた。
「兵糧も尽きる。」
岩成友通は地図を見つめたまま言う。
「一度退き、来春に備えるべきだ。」
長い沈黙の末、三人はようやく同じ結論に至る。
「全軍、撤兵。」
その命令とともに、山崎に集結していた三好軍はゆっくりと陣を畳み始めた。
二か月以上に及んだ山崎の対峙は、ついに幕を閉じる。
京へ迫ったはずの大軍は、一度も都へ足を踏み入れることなく西へ引いていった。
勝龍寺城の櫓から、その様子を見下ろしていた真壁幹久は静かに息を吐く。
「勝ったのではない。」
「守り切ったのだ。」
その言葉に少弐冬明と陶、そして雑賀衆は静かに頷いた。
彼らが稼いだ数か月は、将軍方にとって何万の兵にも勝る時間となったのである。




