山崎の足止め
九月下旬。
三好長逸を名目上の筆頭とする三好軍は、ようやく摂津から山城国へ入った。
目指すは京。
淀を越え、山崎を抜ければ、都は目前である。
中央軍を三好長逸。
右翼を三好政康。
左翼を岩成友通。
数万の軍勢は街道を埋め尽くし、天王山を望みながら山崎へ迫った。
その時であった。
乾いた銃声が後方から轟く。
――パンッ。
続いて幾重もの発砲。
三好軍の殿軍へ銃弾が降り注ぎ、数騎が落馬した。
「後ろだ!」
「敵襲!」
振り返ると、街道の木立から真壁幹久率いる小田勢と、雑賀衆の鉄砲隊が姿を現した。
「京へは行かせぬ!」
真壁の号令とともに雑賀衆が一斉射撃を浴びせる。
撃つ。
すぐに退く。
追えば再び撃つ。
雑賀衆は山崎一帯の林や起伏を巧みに使い、一定の距離を保ちながら三好軍を翻弄した。
「数は少ない! 押し潰せ!」
三好長逸は追撃を命じる。
しかし三好政康は右翼を整えようとし、岩成友通は左翼へ別の命令を飛ばす。
三軍に分かれた指揮は噛み合わず、そのわずかな遅れを雑賀衆は逃さなかった。
銃声だけを残して姿を消し、別の場所からまた撃ちかける。
その繰り返しで三好軍は山崎街道を行きつ戻りつすることになった。
やがて真壁は振り返り、小さく笑った。
「食いついたな。」
少弐冬明が地図を広げる。
「予定どおり勝龍寺城です。」
実は真壁らは三好軍が二か月も動かなかった間に、山崎と淀を結ぶ街道沿いを調べ上げていた。
そして守備の薄かった勝龍寺城へ密かに兵を送り込み、城兵を降して確保していたのである。
「急げ!」
小田勢と雑賀衆はそのまま勝龍寺城へ駆け込み、最後の一隊が入ると城門が固く閉ざされた。
ほどなくして三好軍本隊が到着する。
長逸は城壁を見上げた。
「逃げ込んだか。」
政康は槍を握り直す。
「寡兵だ。力攻めで落とせる。」
しかし岩成友通だけは首を横に振った。
「違う。」
「あれは逃げたのではない。」
「我らを京から引き離すため、ここまで誘い込んだのだ。」
その言葉どおりであった。
真壁の狙いは勝龍寺城を守ることではない。
三好軍を山崎で釘付けにし、一日でも長く京へ入れさせないことであった。
その頃、御所では佐野昌綱が防備を固め、筒井順慶は大和勢を率いて京南方へ布陣し、各地から集まった援軍も続々と到着していた。
三好軍はようやく動き出した。
しかし、その歩みは再び山崎で止められることとなる。




