新たな調べ
朝の京はまだ人通りも少なく、涼しい風が通りを吹き抜けていた。
御所へ向かう道すがら、佐野昌綱は偶然を装って空蝉と並んで歩く。
「先生。」
「なんじゃ。」
佐野は数日間考え続けたことを、簡潔に話した。
大和大祭。
天下茶碗品評会。
御所襲撃。
三つを比べ、小田の者は一度疑いから外したこと。
軍務ではなく、将軍の予定を扱う内務や交渉の流れに目を向けたこと。
そして、将軍の近臣の中でも予定を知り得る者を数人まで絞ったこと。
空蝉は最後まで黙って聞いていた。
やがて短く頷く。
「……分かった。」
それだけだった。
余計なことは言わない。
しばらく歩いてから、空蝉は静かに口を開いた。
「ならば、これから見るべき相手は決まった。」
「足利御所の者たちじゃ。」
「疑うためではない。」
「誰が、どのように動き、誰と話し、情報がどこへ流れていくか。それを見極める。」
佐野も静かに頷いた。
「はい。」
「剣を抜く話ではないな。」
空蝉は苦笑する。
「わしも付き合おう。」
「御所の周りを歩き、人の声を聞くくらいなら、盲の老人でも怪しまれん。」
佐野は思わず笑みを浮かべた。
「心強いです。」
「なに、お前さんは目が良すぎる。」
空蝉は杖で石畳を軽く叩く。
「わしは耳で見る。」
「お前さんは目で見ろ。」
「二人合わせれば、少しは真実に近づけるじゃろう。」
そうして二人は並んで御所への道を歩き始めた。
この日から空蝉もまた、佐野とともに足利御所へ足繁く通うようになる。
剣客としてではない。
人と情報の流れを見つめる、もう一人の探索者として。




