四人の候補
朝基の推理を聞いてから数日。
佐野昌綱は信濃屋の離れの一室へ籠もり、机に向かい続けていた。
部屋には京と大和の絵図、書き散らした紙、何度も書き直した覚え書きが積み重なっている。
最初は伊勢での襲撃や奈良口での一件まで含めて考えていた。
しかし、筆を置き、静かに首を振る。
「違う。」
あれは現場の戦いだ。
敵がどう襲ったかは分かる。
だが、誰が情報を流したかは見えてこない。
佐野は二枚の紙を脇へ退けた。
残すのは三つだけ。
大和大祭。
天下茶碗品評会。
御所襲撃。
そしてもう一つ決めた。
「小田は外す。」
氏治。
朝基。
鹿島。
そして自分自身。
味方だからではない。
疑い始めれば際限がなくなる。
まずは最も単純な形にして考える。
敵は何を知っていたのか。
将軍の外出。
催しの日程。
同行者。
そして警固のおおよその規模。
そこまでは掴んでいた。
だが、軍務そのものが漏れているとは思えない。
もし軍務役が内通しているなら、義輝はとっくに討たれている。
敵は毎度、陽動を仕掛け、隙を作り、それでも失敗している。
つまり敵は警固を完全には把握していない。
知っているのは予定であり、その予定から警備を推し量っているのだ。
「ならば漏れているのは軍ではない。」
「政務……あるいは内務。」
佐野は新しい紙を取り出す。
ここからは役目で絞る。
将軍の予定を最初に知り、各所へ伝える者。
その条件に当てはまる人物を、一人ずつ書き出していく。
まず。
一色藤長。
将軍の側近として政務に携わり、諸方との折衝も担う男。
次に。
細川藤孝。
奉公衆として義輝に近く、文武に優れ、使者として動くことも多い。
三人目。
進士晴舎。
御所の政務に深く関わり、将軍の日常を支える近臣。
最後に。
松田頼隆。
奉公衆として義輝の身辺を守り、供回りや予定を知り得る立場にある。
佐野は四つの名を静かに見つめた。
やがて筆を置く。
「違う。」
「この四人を疑うためではない。」
「この四人に共通するものを調べる。」
将軍の予定は、誰が決め、誰が書き留め、誰が各所へ伝えるのか。
その流れを辿れば、情報が外へ漏れる場所も見えてくるはずだった。
佐野は紙を丁寧に畳み、懐へしまう。
「まずは、この四人からだ。」
疑うためではない。
真実へ至る道筋を見つけるために。
数日ぶりに立ち上がった佐野は、静かに御所へ向かう決意を固めた。




