敵の筆跡
結城朝基は地面に描いた四本の線を、今度は二つに分けるように一本の横線を引いた。
「俺は、この四件を二種類に分けて考える。」
新田が地面を覗き込む。
「二種類?」
「ああ。」
結城は最初の二件を指した。
「伊勢神域。」
「奈良口。」
「これは同じ系統だ。」
「手口は単純。真正面から仕掛けている。」
「標的も似ている。」
「こちらの隙を突いたというより、腕試しや機会を見ての襲撃に近い。」
そして指は、残る二件へ移る。
「だが。」
「大和大祭。」
「そして御所襲撃。」
「これは別物だ。」
佐野は静かに頷いた。
「私も、その二件は似ていると感じていました。」
結城はさらに続ける。
「まず、大和大祭。」
「夕刻を選び、人の流れを読み、陽動を幾重にも重ね、本命へ近づこうとしている。」
「次に御所襲撃。」
「市中で騒ぎを起こし、兵を分散させ、その隙に御所を狙った。」
「どちらも共通しているのは──」
結城は二本の線を小枝で結んだ。
「陽動が異常に緻密だ。」
新田も真顔になる。
「そこまで読めるか。」
結城は迷わず頷いた。
「読める。」
「いや、読めるというより、そうでなければ説明がつかない。」
佐野が静かに問う。
「何がでしょう。」
結城は一拍置いてから断言した。
「内通者だ。」
空気が一瞬、張り詰めた。
「大和では誰がどこを警護するか。」
「御所では抜刀隊がいつ動き、どこへ兵を割くか。」
「敵は、それを知っていたように動いている。」
「偶然では、ここまで噛み合わない。」
新田が低く呟く。
「つまり……。」
「計画性。」
「情報。」
「実行。」
「この三つが揃って初めて、あの陽動は成立する。」
結城は佐野を真っ直ぐ見た。
「俺は犯人までは分からない。」
「だが一つだけは断言できる。」
「大和大祭と御所襲撃には、こちらの動きを事前に知る者が関わっている。」
「それが敵の間者か。」
「情報を売る者か。」
「あるいは知らぬうちに口を滑らせている者か。」
「そこまでは分からん。」
「だが、内側から情報が漏れていなければ、あの手際は不可能だ。」
佐野は深く息を吐いた。
結城の推理は証拠に基づく断定ではない。
しかし、過去の襲撃を手口から分類し、共通点を積み重ねたその結論には、剣士ではなく軍略家としての冷静な視点があった。
「……承知しました。」
佐野は静かに頭を下げる。
「敵を追う前に、まず情報の流れを見直します。」
結城は小さく頷いた。
「それでいい。」
「敵は外にいるとは限らない。」
「敵がいるのではなく、情報が漏れる仕組みがある。」
「まずは、その仕組みを見つけることだ。」




