結城朝基の推理
結城朝基は、張り詰めていた空気を少しだけ和らげるように微笑んだ。
「まずは、祝おう。」
「天下茶碗品評会は成功だった。」
「将軍も無事。堺との縁も深まった。各地の大名や商人にも、小田と坂東の名は十分に伝わったはずだ。」
新田も頷く。
「そうだな。あれだけの催しを無事に終えられたのは大きい。」
佐野も穏やかに答えた。
「皆のおかげです。」
しかし結城の表情はすぐに引き締まった。
「……だからこそだ。」
「一つだけ、拭えない違和感がある。」
佐野が静かに視線を向ける。
「違和感、ですか。」
「ああ。」
結城は声を潜めた。
「敵は、こちらの警固の日程や動きを知っている節がある。」
「奈良でも。」
「京でも。」
「こちらがどこへ兵を割くか、どこが薄くなるかを知っていたような動きをしている。」
新田は腕を組む。
「偶然では説明しづらいな。」
「もちろん偶然かもしれん。」
結城はすぐに付け加えた。
「だが、警戒して損はない。」
そして佐野を真っ直ぐ見た。
「佐野。」
「お前はもう足利家中にも顔が利く。」
「将軍にも信頼され、家臣とも馴染んできた。」
「だからこそ、疑いにくくなる。」
佐野は静かに頷いた。
「……はい。」
「だが、人を疑えと言っているんじゃない。」
結城は穏やかな口調で続けた。
「情報の流れを疑え。」
「誰が悪いかを決めつける必要はない。」
「何気ない一言が漏れているのか。」
「予定を書いた書状なのか。」
「供回りなのか。」
「あるいは商人か、公家か。」
「まずは、どこから情報が流れているのかを見るんだ。」
佐野は深く息を吸い、静かに頭を下げた。
「承知しました。」
「慣れというものは、一番の油断になります。」
結城は満足そうに頷く。
「そういうことだ。」
「敵がいると決めつける必要もない。」
「だが、警固の予定が外へ漏れているような違和感だけは忘れるな。」
「それだけで、次に救える命があるかもしれない。」
川風が三人の間を吹き抜けた。
互いに疑うためではない。
互いを守るために、もう一度足元を見直そう。
結城の言葉には、そんな思いが込められていた。




