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天下茶碗品評会・新田の一案

品評会も終盤に差しかかったある日。


氏治は宗及をはじめ堺の商人たちを前に、新たな相談を持ちかけた。


「このあと坂東ガレオンは、数隻を鹿島へ帰す。」


「だが残る船団は、そのまま博多へ向かわせようと思う。」


宗及は興味深そうに頷く。


「博多でございますか。」


「うむ。九州との縁も深めたい。」


氏治は広げられた海図に目を落とした。


「茶碗は積んだままでもよい。しかし、せっかく堺まで来たのだ。」


「京の染物、漆器、紙、香、金工、薬……。買えるだけ買い込みたい。」


「そのためには船倉を空けねばならぬ。」


商人たちも顔を見合わせる。


積荷にはまだ各地から集めた品も多く残っている。


荷を動かさなければ、新たな仕入れは難しい。


しばらく沈黙が流れた。


その時、護衛として控えていた新田義綱が静かに一歩前へ出た。


「恐れながら。」


氏治が目を向ける。


「申してみよ。」


「そろそろ、品評を終えられた御方も多い頃かと存じます。」


「ならば、その方々のお時間をお借りして――。」


新田は町の賑わいを見渡した。


「実演販売をなされてはいかがでしょう。」


宗及の眉がぴくりと動く。


「実演販売……。」


「はい。」


「名物を床の間に飾るばかりでは、手が届く者は限られます。」


「しかし実際に使って見せれば、人は『自分にも使える』と思います。」


氏治も面白そうに耳を傾けた。


新田はさらに続ける。


「茶席も、少し堅苦しさを外しましょう。」


「濃茶だけではなく番茶も出す。」


「菓子だけではなく、飯や汁もよそう。」


「高価な名物だけでなく、丈夫で使いやすい茶碗や皿、鉢も並べる。」


「民の目線まで一つ下ろすのでございます。」


商人たちは互いに顔を見合わせた。


新田の言葉は、これまでの茶会とはまるで発想が違う。


「武士も町人も農民も。」


「『これなら我が家でも使える。』」


「そう思える品を、その場で実際に使って見せるのです。」


「使い心地が分かれば、そのまま買って帰る者も多いでしょう。」


宗及は腕を組み、思わず唸った。


「なるほど……。」


「名物は天下の憧れ。」


「普段使いは天下の商い。」


「その二つを分けるわけですな。」


「左様です。」


新田は静かに頷いた。


「品評会は、天下一を決める場。」


「実演販売は、人々の暮らしを豊かにする場。」


「両方あれば、堺はさらに栄えましょう。」


宗及は堪えきれず笑い出した。


「はははは!」


「小田家は武将まで商人になりますか!」


氏治も思わず笑みを浮かべる。


「いや。」


「新田は商人ではない。」


「民をよく見ているだけだ。」


新田は少し照れたように頭をかいた。


「兵も民も同じでございます。」


「良い道具は、使ってこそ価値がございます。」


その言葉に、店内の空気が変わる。


宗及は力強く頷いた。


「よろしい。」


「天下茶碗品評会、最後の数日は『使う茶会』と参りましょう。」


「名物は名物として讃え、普段の器は普段の器として愛でる。」


「それこそ、茶が武士だけのものではなく、天下の人々のものとなる第一歩でございましょう。」


氏治は満足げに頷き、堺の町へ目を向けた。


祭りは終わりに近づいていた。


しかし、この日生まれた新しい商いの形は、品評会が終わったあとも、堺の町に長く残ることになるのだった。

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