↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
381/1025

天下茶碗品評会 開幕

宗及の提案を受けて準備は驚くべき速さで進んだ。


坂東ガレオンは岸壁へ堂々と碇を下ろし、周囲には商人たちの市が広がる。


港には坂東水軍。


街道には坂東上野騎馬隊。


鹿島衆と儀仗抜刀隊が昼夜を問わず警戒を続け、堺は一つの城塞のような姿となっていた。


そして、およそ一週間後――。


天下茶碗品評会は、ついにその幕を開けた。


朝早くから堺の港は人で埋め尽くされる。


異国の香木が香り、茶が湯気を立て、異国の織物や硝子細工が秋の日差しを受けて輝いていた。


その中央には、威風堂々たる坂東ガレオン。


船内では宗及をはじめとする茶人たちが、渡来の茶碗を一つひとつ手に取り、姿、焼き、手触り、由来を語り合っていた。


佐野昌綱の進言どおり、この催しは商人だけの集まりでは終わらなかった。


将軍・足利義輝が近習を従え、自ら堺へ姿を現したのである。


さらに妹君も同行し、公家や幕臣たちも供として加わる。


その知らせは瞬く間に会場を駆け巡った。


「将軍家がお見えになった!」


「義輝公自らご臨席とは!」


会場は大きなどよめきに包まれる。


佐野は儀仗抜刀隊を率いて義輝の警固につき、近習や鹿島衆とも連携しながら周囲へ鋭い視線を巡らせた。


港では坂東水軍が船を監視し、街では結城朝基率いる坂東上野騎馬隊が巡回を続ける。


これほど厳重な警備の中で催しが行われることは、堺始まって以来であった。


その甲斐あって、天下茶碗品評会は混乱一つなく着々と進んでいく。


会場には、小田家と親交の深い諸勢力も姿を見せていた。


上杉。


北条。


伊達。


最上。


筒井。


いずれも名代や家臣を送り込み、渡来の名物や新たな商いへ強い関心を寄せている。


さらに西国からも人々が続々と訪れた。


中国。


四国。


九州。


諸国の豪商や茶人が珍品を携え、坂東ガレオンへ足を運ぶ。


しかし、その中でもひときわ勢いを見せていたのは、清洲の商人たちであった。


尾張で急速に勢力を伸ばす織田家を背景に、多くの商人が堺へ集まり、市場の動きを熱心に見極めている。


その一角には、大友家の使者。


そして、織田家の使者の姿もあった。


互いに笑顔で挨拶を交わしながらも、その視線は鋭く相手の動きを探っている。


茶碗を眺める者。


香木の値を尋ねる者。


船の構造をさりげなく観察する者。


商談に見せかけて情報を集める者。


誰もが笑みを浮かべながら、その実、一歩も譲らない。


宗及はその光景を眺め、静かに呟いた。


「これは、茶会ではありませぬな。」


少弐冬明が苦笑する。


「ええ。」


「外交の戦場です。」


佐野もまた会場全体へ視線を巡らせる。


刀を抜く者はいない。


血も流れない。


しかし、この堺では今、天下の行く末を左右する情報と利が激しくぶつかり合っていた。


天下茶碗品評会。


その名の下に開かれたこの催しは、いつしか日本中の武家、公家、商人が集う、乱世最大の外交舞台となりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。