坂東の旗、堺に集う
天下茶碗品評会の開催が決まると、その知らせは坂東各地へと駆け巡った。
数日後――。
堺へ続く街道の彼方に、砂煙が立ち上る。
やがて現れたのは、整然と隊列を組む騎馬武者たちであった。
白地に黒く染め抜かれた蜈蚣の旗が秋風にはためく。
「坂東勢だ!」
町人たちは思わず道を開けた。
馬上にあるのは、上野守護・結城朝基。
その後ろには、上野で鍛えられた精強な坂東上野騎馬隊が続く。
甲冑は朝日に輝き、槍の穂先は一直線に揃っている。
誰一人として声を荒らげる者はなく、静かな威圧感だけが堺の町を包んだ。
宗及は店先からその光景を見つめ、感嘆の息を漏らした。
「見事なものですな……。」
「軍勢でありながら、町を乱さぬ。」
「これなら商人も安心して商いができます。」
結城は佐野の前で馬を降りると、一礼した。
「上野守護・結城朝基。」
「氏治様の命により参上いたしました。」
「街道と町の警備はお任せください。」
その頃――
港では、さらに大きなどよめきが起こっていた。
沖合に無数の帆影が現れる。
巨大な坂東ガレオンを先頭に、中型戦船、小早、輸送船が整然と隊列を組みながら堺港へ入ってくる。
船首には蜈蚣の旗。
甲板には鉄砲隊。
舷側には弓兵。
岸壁へ着くや否や、坂東水軍は荷揚げと同時に港の警備を開始した。
桟橋。
倉庫。
船着場。
沖合の見張り。
すべてが無駄なく配置され、港は一つの要塞のような姿へ変わっていく。
少弐冬明は満足そうに頷いた。
「これで海は盤石です。」
「港へ出入りする船は、すべて坂東水軍が見届けます。」
そのときだった。
一人の見張りが空を指さした。
「鷹だ!」
人々が一斉に見上げる。
澄み渡る秋空。
その高みに、二羽の鷹が悠然と円を描いていた。
一羽は港の上を。
もう一羽は町の上を。
互いに距離を保ちながら、まるで堺全体を見守るかのように旋回している。
陽光を受けた翼が銀色にきらめき、その鋭い鳴き声が秋空へ響き渡った。
宗及は目を細める。
「縁起がよろしい。」
「まるで、この催しを祝福しているようですな。」
佐野は静かに空を見上げた。
「いや……。」
「祝福だけではあるまい。」
「鷹は獲物を見逃さぬ。」
「空から堺を見渡しているのだ。」
結城もまた鷹を見つめ、小さく笑った。
「空にも見張りがおりますか。」
その言葉に空蝉は酒瓢を揺らしながら笑う。
「陸は騎馬隊。」
「海は水軍。」
「空は鷹。」
「これでは悪党どもも近寄れまい。」
港には坂東水軍。
街には坂東上野騎馬隊。
そして堺の空には二羽の鷹。
秋の堺は、かつてないほど厳重な守りの中で、天下茶碗品評会という新たな歴史の幕開けを静かに待っていた。




