天下茶碗品評会
宗及は卓上に並ぶ異国の茶碗を一つ一つ眺めると、静かに口を開いた。
「氏治殿のご構想、実に壮大です。」
「ですが、一つ問題がございます。」
少弐冬明が頷く。
「お聞かせ願えますか。」
宗及は並べられた茶碗を指差した。
「これほどの数を品評するには、時間が足りませぬ。」
「一つ一つ手に取り、茶を点て、姿を見て、由来を調べ、評を書き残す。」
「今ここにある品だけでも、一月は要しましょう。」
船内に静寂が流れる。
しかし宗及は笑みを浮かべた。
「ですが――。」
「商いは速さが命。」
「天下の動きを待ってはくれません。」
宗及は港を望む窓へ歩み寄る。
秋晴れの堺には大小の船が並び、人々が絶え間なく行き交っていた。
「ですから、今回は渡来品を先に定めましょう。」
「ルソン、シャム、琉球、明、南蛮渡り。」
「氏治殿が集められた品だけで第一回品評会を開くのです。」
少弐冬明は腕を組み、大きく頷いた。
「なるほど。」
宗及はさらに続ける。
「そして会場は寺でも屋敷でもありません。」
「この堺の町と――」
宗及は船室の柱を軽く叩いた。
「この坂東ガレオンそのものです。」
佐野が顔を上げる。
「船を会場に。」
「ええ。」
宗及は目を輝かせた。
「これほどの大船は、それだけで見物になります。」
「町では商人が品を並べる。」
「船では名物茶碗を品評する。」
「堺中の人々が行き来し、自然と商いが生まれるでしょう。」
少弐も感心したように微笑む。
「確かに。」
「船であれば、品の搬入も容易。」
「海外から届いた品も、そのまま積み下ろせます。」
宗及は最後に佐野へ向き直った。
「そして小田方にとっても都合がよい。」
「坂東ガレオンは一つの城にも等しい。」
「警備は船上で完結し、不審者の出入りも限られます。」
「陸では堺衆が。」
「海では小田水軍が守る。」
「これほど安全な会場はございますまい。」
少弐冬明は静かに立ち上がった。
「……お見事。」
「氏治様は交易を。」
「宗及殿は商いを。」
「私は海を。」
「皆の力を合わせれば、これは天下初の品評会となりましょう。」
佐野は秋空の港を見つめた。
町を歩く人々。
岸壁に並ぶ船。
そして港の中央にそびえる坂東ガレオン。
それはもはや一隻の船ではない。
天下の商人と茶人を結ぶ、新たな舞台そのものになろうとしていた。




