坂東ガレオンの会談(二)
船室には静かな波音だけが響いていた。
少弐冬明は卓上の書状を開き、ゆっくりと読み上げる。
「氏治様より。」
一同は自然と姿勢を正した。
> 「堺にて、天下茶碗品評会を開く。」
宗及は目を細める。
冬明は続けた。
> 「天下のみならず、海外の茶碗、茶器を一堂に集めよ。」
「ルソン、シャム、琉球、明、南蛮渡りの品は小田が責任をもって集める。」
「国内の名物は堺の力を借りたい。」
「品評は今井宗久殿、今井宗及殿をはじめ、天下の数寄者に委ねる。」
宗及は驚きと喜びが入り混じった表情で書状を見つめた。
「天下の……品評会。」
冬明は頷く。
「さらに氏治様は、このようにも。」
再び読み上げる。
> 「良き茶碗には由来を書き留めよ。」
「産地、焼き、土、釉薬、重さ、姿、使い心地。」
「そして天下の茶人が評を加えよ。」
「格付けを行い、目録として後世へ残せ。」
宗及は思わず立ち上がった。
「目録まで……。」
「これは前代未聞です。」
「これまでは名物といえば、人づてに語られるのみ。」
「しかし、書として残せば、天下共通の基準になります。」
冬明は静かに笑った。
「氏治様も、そのための企画と仰せでした。」
さらに書状は続く。
> 「名品とは、生まれながらの名品にあらず。」
「人が認め、価値を見出し、天下が求めることで初めて名物となる。」
広間は静まり返った。
水戸頼家が腕を組む。
「つまり……。」
宗及が答えた。
「価値を作るのです。」
「これまで見向きもされなかった器でも、天下の茶人が評価すれば、その瞬間から名物になる。」
冬明は頷いた。
「その通り。」
「氏治様は商いを変えようとしております。」
船室の奥に置かれていた箱が開けられた。
中には色も形も様々な茶碗が並ぶ。
明の青磁。
琉球の焼物。
シャムの素朴な陶器。
ルソンの赤土で焼かれた器。
宗及は一つ一つを手に取り、目を輝かせた。
「面白い……。」
「実に面白い。」
「高価だから名物ではない。」
「美しければ、使いやすければ、由来があれば、名物となり得る。」
冬明は書状の最後を読み上げた。
> 「品評会にかかる費用は、すべて小田が負担する。」
「堺には、人と知恵を貸していただきたい。」
宗及は思わず笑みを浮かべた。
「氏治殿は、本当に恐ろしいお方です。」
「茶会を開くのではない。」
「新しい市場そのものをお作りになる。」
佐野は窓の外を見た。
港には諸国の船が集まり、異国の旗が潮風にはためいている。
この坂東ガレオンの中から始まる一つの品評会が、やがて天下の商いを変える。
そう直感せずにはいられなかった。




