表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
369/1023

気比の剣、その源流

気比神社で神宝を託された翌日。

佐野は新たな刀を腰に差し、空蝉とともに敦賀の町を歩いていた。

港町らしく、市には魚介や昆布、北国の産物が並び、多くの旅人や商人で賑わっている。

だが佐野の目は、自然と武具を扱う店へ向いていた。

「……これは。」

一軒目の刀屋で足が止まる。

並ぶ刀の中に、昨日譲り受けた御神刀とよく似た姿のものがあった。

反りはやや深く、柄は少し長い。

重心も手元寄りで、抜きやすそうな造りをしている。

佐野は首を傾げた。

さらに別の店へ入る。

そこにも。

また別の鍛冶屋にも。

同じような特徴を持つ刀が何本も並んでいた。

「偶然……ではない。」

佐野が呟くと、空蝉は面白そうに笑った。

「気付いたか。」

「気比の刀は、どれも似てるだろ。」

佐野は一本を手に取り、静かに重心を確かめる。

「居合に向いております。」

「ですが、抜くだけではありません。」

「そのまま斬り結ぶことまで考えられています。」

空蝉は満足そうに頷いた。

「その通りだ。」

すると店の主人が笑顔で話しかけてきた。

「旅のお侍様、お目が高い。」

「この辺りじゃ、それが当たり前なんですよ。」

佐野は興味深そうに尋ねた。

「何か理由があるのですか。」

主人は刀を一本手に取りながら答えた。

「この敦賀一帯には、昔から気比神道流という一派がございます。」

「礼法を重んじ、居合を尊び、立ち合いを何より大切にする流儀です。」

「ですから剣士たちは、抜きやすく、それでいて抜いた後も自在に戦える刀を求める。」

「我ら刀鍛冶も、その求めに応えてきたのです。」

空蝉は腕を組んだ。

「神前で礼を尽くし、一瞬で勝負を決める。」

「それが気比神道流の気風だった。」

「だから刀鍛冶も、その流儀に合わせて刀を鍛えた。」

佐野は腰の御神刀へ手を添える。

昨日までは、ただ一本だけ特別な刀だと思っていた。

しかし違った。

あの刀は、この土地の文化と武芸が長い年月をかけて生み出した到達点だったのである。

町を歩けば、その思想は刀だけではなかった。

武家たちは礼を重んじ、道場ではまず一礼から始まる。

若者たちは抜刀の速さを競うだけではなく、納刀の美しさまで互いに磨いていた。

佐野は静かに呟く。

「刀とは、鍛冶だけが作るものではない。」

「土地が求め、流派が育て、人が磨き上げる。」

空蝉は嬉しそうに笑った。

「だから、お前にあの刀を持たせたかった。」

「一振りの名刀じゃねえ。」

「気比という土地が育て上げた一本だからな。」

佐野は改めて刀へ手を添えた。

もはや腰に差しているのは、一振りの武器ではない。

礼を重んじ、一瞬にすべてを懸ける──気比の武の精神、そのものを受け継いだ証であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ