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堺の商人、御所に集う

永禄七年三月。


近衛前久が帰った後、今度は堺から商人たちが御所を訪れた。


筆頭は今井宗及。


そのほか津田宗達や天王寺屋の商人らも顔を揃え、御所はにわかに賑やかになる。


宗及は義輝へ挨拶を済ませると、昌綱を見つけて声を上げた。


「おお、佐野殿ではないか!」


「宗及殿、ご無沙汰しております。」


「いやいや、今でも堺では大和の祭の話で持ちきりですぞ。」


義輝が興味深そうに尋ねる。


「ほう、何がそれほど面白かったのだ。」


宗及は笑いながら答えた。


「興福寺の大祭も見事でしたが、何より佐野殿の発想です。」


「あの寒気を利用して氷を残し、茶を冷やして客に振る舞ったでしょう。」


「あれは堺でも評判でしてな。」


周囲の商人もうなずく。


「『冷たい茶とは面白い。』」


「『香とともに楽しめば、なお風流。』」


「皆、口々に申しておりました。」


宗及は昌綱を指差した。


「佐野殿は頭が柔らかい。」


「常識に縛られず、今、人が何を求めているかを直感で見抜く。」


「しかも無駄を嫌い、ある物を工夫して使う。」


「商いをさせても一流になりますぞ。」


義輝は笑いながら昌綱を見る。


「そこまで申されるとは。」


「いや、本心でございます。」


宗及は大きくうなずいた。


「武士としても見事ですが、商人の勘まで持っておられる。」


「堺へ来られたなら、間違いなく一財産築けます。」


そう言いながら宗及は、さりげなく漆塗りの小箱や南蛮渡来の品を並べ始めた。


「さて、せっかくのご縁。」


「上様にも佐野殿にも、お一ついかがでしょう。」


商人らしい流れるような口上に、昌綱は苦笑する。


「結局そこへ参りますか。」


「商人ですからな。」


宗及は悪びれもしない。


御所は笑いに包まれた。


その時、義輝が一振りの小太刀を手に取った。


飾り気は少ないが、均整の取れた美しい拵えである。


「昌綱。」


「は。」


「まだ出会って二月ほどではある。」


「されど、余はそなたを弟のように思っておる。」


昌綱は思わず顔を上げた。


義輝は穏やかに笑う。


「兄弟の証として、揃いの小太刀を買おうではないか。」


「互いに帯びれば、都でも坂東でも、この縁を忘れぬ。」


宗及は目を丸くした。


「……これは商売をするつもりが、思わぬ大口になりましたな。」


周囲は笑う。


しかし昌綱は笑えなかった。


将軍が、これほど自然に自分を家族のように遇してくれるとは思ってもみなかったからである。


深く頭を下げ、静かに答える。


「……身に余る光栄にございます。」


義輝は照れくさそうに笑った。


「堅いことを申すな、昌綱。」


「今日は将軍と家臣ではない。」


「兄弟分としての買い物だ。」


御所には再び笑い声が広がり、宗及は「これは堺でも格好の話の種になりますな」と満面の笑みを浮かべた。

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