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信濃屋への帰還

新田政景らを見送り、佐野昌綱は夕暮れの京へ戻った。

冬の冷たい風が町を吹き抜ける。

行き交う人々は年の瀬を迎える支度に忙しく、信濃屋の軒先にも正月飾りが掛けられ始めていた。

暖簾をくぐると、女将がいつもの穏やかな笑みで迎える。

「お帰りなさいませ、佐野様。」

「戻りました。」

佐野が旅装を解く間もなく、女将は一通の文を差し出した。

「お留守の間に、お預かりしておりました。」

「氏治様からにございます。」

佐野は軽く眉を上げる。

「氏治様から。」

封には小田家の花押が記されていた。

佐野は静かに封を切り、文を広げる。

佐野昌綱へ。

大和での働き、まことに大儀であった。

報告は無用。

一部始終は、出浦より聞き及んでいる。

そなたが改めて筆を執るには及ばぬ。

年も暮れる。

この正月ばかりは、心身を休めよ。

京の空気を見聞し、人々の営みを知ることもまた務めである。

ただし、年が改まれば新たな役目を命ずる。

次の標的は、将軍・足利義輝。

剣豪将軍と呼ばれる御方へ近づけ。

仕えるもよし。

学ぶもよし。

まずは信を得よ。

その先は、折を見て命ずる。

――小田氏治

文を読み終えた佐野は、静かに畳んだ。

女将がそっと尋ねる。

「何かございましたか。」

佐野は小さく笑う。

「しばらくは休めとのことです。」

「それは何よりでございます。」

「ですが、年が明ければ忙しくなります。」

佐野は文を懐へ納めた。

「次は、将軍家です。」

女将は驚いたように目を丸くしたが、すぐに穏やかな笑みへ戻った。

「それはまた、大きなお役目ですこと。」

佐野は頷く。

「剣豪将軍、足利義輝公。」

「どのようなお方か、一度この目で見てみたいと思っておりました。」

窓の外では、京の町に暮れゆく冬の日が静かに沈んでいく。

奈良での務めは終わった。

そして新たな舞台は、京の中心――将軍足利義輝のもとへと移ろうとしていた。

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