同じ道筋、異なる道筋
長慶は静かに茶碗を置いた。
「……よい。」
「武家と公家を両輪とし、帝を中心に国を治める。」
「その考え、私は好ましく思う。」
佐野は深く頭を下げた。
「ありがたきお言葉。」
宗及は静かに茶をすすり、微笑む。
「その世が来るならば、商人もまた安心して荷を運べます。」
「京から奈良、奈良から堺、そして坂東へ。」
「争いより市が立つ方が、私には何よりでございます。」
久秀は小さく笑った。
「もっとも、私は畿内すべてなど欲しいとは思いませぬ。」
佐野が視線を向ける。
「私なら、淡路一国あれば十分。」
「西国と畿内を結ぶ喉元ですからな。」
そして扇子を宗及へ向けた。
「そうでしょう、宗及殿。」
宗及は苦笑した。
「弾正殿は、いつも私に難しい問いを投げられる。」
「ですが、おっしゃるとおり。」
「淡路は島ではなく、海の門。」
「門を押さえれば、人も荷も自然と集まります。」
久秀は満足そうに頷く。
「国は広げれば広げるほど守る兵が要る。」
「だが、人と物の流れを押さえれば、国は自ら豊かになる。」
長慶は二人の話を聞き終えると、静かに口を開いた。
「弾正は道を見ておる。」
「宗及殿は商いを見ておる。」
そして佐野を見る。
「氏治殿は、人を見ておられる。」
「皆、それぞれ違う道を歩んでおるが、目指す先は畿内を乱ではなく安らぎへ導くことかもしれぬ。」
長慶は穏やかな笑みを浮かべた。
「佐野殿。」
「今日の話は実に有意義であった。」
「氏治殿にもお伝えくだされ。」
「三好長慶は、大和中立の志に異を唱えぬ。」
「その志が天下のためになるならば、私は力を貸そう。」
茶室には静かな沈黙が流れた。
敵味方という垣根を越え、一人の武将、一人の商人、一人の策士、そして一人の家臣が、しばし同じ未来を見つめたのであった。




