表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
342/1023

武家と公家の両輪

長慶の一言で、茶室の空気が変わった。

互いの腹を探る場ではない。

国の行く末を語る場となったのである。

長慶は静かに佐野を見つめる。

「佐野殿。」

「まず聞こう。小田殿は、何ゆえ近衛殿を助け、大和中立などという面倒なことを考えられた。」

「坂東より兵を進め、土地を得る方がよほど分かりやすい。」

佐野は茶碗を静かに置き、姿勢を正した。

「氏治様は、大和を欲してはおりませぬ。」

宗及が興味深そうに目を細める。

「では、何を望まれる。」

佐野は迷いなく答えた。

「帝を中心とした世にございます。」

長慶も久秀も黙って耳を傾ける。

「氏治様は常々申されます。」

「武家のみで世を治めようとすれば武は驕り、公家のみで世を導こうとすれば政は弱る。」

「ゆえに武家と公家は両輪でなければならぬ、と。」

茶室は静まり返る。

佐野はさらに続けた。

「武家は国を守る剣。」

「公家は国を導く知。」

「そして、その中心に帝がおわす。」

「それが氏治様の描く国でございます。」

宗及は思わず感嘆の息を漏らした。

「なるほど……。」

「商人の考える国とは、ずいぶん違いますな。」

久秀も小さく笑う。

「武家らしからぬ理想です。」

「いや、理想というより夢でしょうかな。」

佐野は穏やかにうなずいた。

「夢かもしれませぬ。」

「ですが、夢なき政は、ただ争うだけの政になります。」

長慶は腕を組み、しばらく黙考した。

やがて静かに口を開く。

「……よい。」

誰も言葉を挟まない。

「私は、その考えを好ましく思う。」

佐野は顔を上げた。

長慶は穏やかに続ける。

「三好は畿内をまとめるため、幾度も兵を動かしてきた。」

「されど戦は一つ終われば、また一つ始まる。」

「敵は増え、兵は疲れ、民もまた疲れる。」

茶碗に目を落としながら言う。

「大和が中立となれば、一つ戦線を畳める。」

「それだけでも三好には大きな益だ。」

そして佐野をまっすぐ見た。

「何より、帝の御威光のもとに諸家が争わぬ地が一つでも生まれるなら、それは畿内のためにもなる。」

「私は、大和中立化に異論はない。」

宗及は満足そうに笑みを浮かべた。

「これは面白い。」

「堺、京、奈良、坂東。」

「人も荷も絶えず往来いたしましょう。」

「商いは大いに栄えますな。」

一方、久秀は茶をすすり、静かに首を振った。

「私は少し違います。」

三人の視線が集まる。

久秀は茶碗を置き、ゆっくりと言った。

「本気で奈良そのものを欲しい者など、おそらくおりますまい。」

「皆が欲しいのは、奈良を通る道であり、朝廷との縁であり、名分です。」

「ならば中立の方が、かえって都合が良い者も多い。」

そう言って久秀は佐野へ視線を向ける。

「佐野殿。」

「氏治殿は、なかなか面白い御方のようですな。」

佐野は静かに一礼した。

「そのお言葉、主も喜びましょう。」

茶室には再び静かな空気が流れた。

しかし四人は、それぞれ異なる立場にありながら、一つの未来について初めて同じ卓を囲んで語り合っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ