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坂東の未来

「氏治。」


「ならば、お前は武田と村上、どちらへ味方する。」


普通なら「村上です」「武田です」と答えるところを、氏治は少し考えてから首を振ります。


「どちらにも味方いたしません。」


尚綱が興味深そうに聞き返します。


「ほう。」


「では、どうする。」


氏治は地図を見ながら答えます。


「まず使者を出します。」


「双方へです。」


「戦をやめよ、と?」


「いいえ。」


「勝っても負けても、この戦で失うものを書き出します。」


「家臣。」


「兵。」


「田。」


「村。」


「馬。」


「それを双方へ見せます。」


義広は首をかしげます。


「それで戦をやめますか。」


氏治は首を横に振ります。


「やめないかもしれません。」


「でも、一日でも遅れれば、その一日で助かる命があります。」


「戦は始めるのは簡単です。」


「終わらせるほうが、ずっと難しいです。」


部屋は静まり返ります。


尚綱は氏治を見つめたまま、静かに言います。


「……誰から教わった。」


「その考えを。」


氏治は少し寂しそうに笑います。


「たくさん失った人が教えてくれました。」


もちろん、それは亡霊として四百年を見続けた経験ですが、その真実は誰にも分かりません。


尚綱はゆっくり立ち上がり、氏治の前に膝をつきます。


「氏治。」


「武は人を斬るためではない。」


「国を残すためにある。」


「その言葉を、この年で言える童は初めて見た。」


そして家臣たちへ向き直り、こう宣言します。


「この子は、我が甥ではない。」


「坂東の宝だ。」


この一言で宇都宮家中の空気が変わります。


以後、尚綱は氏治を単なる親族ではなく、**「坂東全体を背負う器」**として接するようになり、後の宇都宮家の全面的な協力につながる、大きな転機のエピソードになります。


もっとインパクトを強めて


インパクトを強めるなら、「兵法の正解」を超えて、尚綱が**「この子は自分を超える」と直感する一言**が必要です。


例えば、議論の最後に尚綱がわざと挑発します。


尚綱は地図を畳んだ。


「よい。」


「では最後の問いだ。」


書院の空気が引き締まる。


「お前が武田なら。」


「お前が村上なら。」


「それぞれ妙手を申した。」


尚綱は氏治を真っ直ぐ見た。


「では、お前がその二家の主君ならどうする。」


義広は「もちろん勝つ」と答えようとする。


朝綱は考え込む。


氏治だけは静かに答えた。


「戦いません。」


一同が固まる。


「……何。」


「武田も村上も戦わせません。」


尚綱が目を細める。


「理由を申せ。」


氏治は地図の中央を指した。


「武田は西を向いています。」


「村上は武田を見ています。」


「ですが、その間に時だけが進みます。」


そしてゆっくり顔を上げる。


「十年後。」


「二十年後。」


「もっと大きな敵が現れます。」


「その時、勝った武田も、負けた村上も、今日失った兵は帰ってきません。」


部屋は静まり返る。


氏治は続ける。


「戦で勝つことより。」


「味方になる道を探します。」


「敵を一人減らすより。」


「味方を一人増やすほうが国は強くなります。」


「私なら娘を嫁がせます。」


「人質も出します。」


「一緒に市を開きます。」


「互いの兵が戦うより、互いの商人が行き来する国を作ります。」


「そうすれば、その兵は未来の敵と戦えます。」


尚綱の表情が変わる。


戦術ではない。


戦略ですらない。


国づくりの話を、この幼子はしている。


やがて尚綱は静かに立ち上がる。


「……見事だ。」


誰も口を開けない。


尚綱は家臣たちへ振り返る。


「聞いたか。」


「この童は、戦の勝ち負けを語っておらぬ。」


「百年先の坂東を語っておる。」


そして氏治の前へ進み、膝をつく。


「氏治。」


「今日より私は、お前を甥としてではなく、一人の将として遇する。」


「この坂東に、お前ほど末を見通す者が現れるとは思わなんだ。」


書院の家臣たちは思わず平伏した。


治彦だけが胸の内で呟く。


(やはり……。)


(この人は四百年を生きた亡霊だ。)

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