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秋風、それぞれの道

十月。

都はようやく秋の気配を深め、信濃屋の庭先では薬草が静かな陽射しを浴びていた。

空蝉は縁側に腰を下ろし、乾いた薬草を指先でより分けている。

白く濁った瞳はどこか遠くを向き、人と話すときも視線は定まらない。

初めて見る者なら、弱視の旅僧か、年老いた浪人と思うだろう。

だが、その耳は庭を踏む足音を聞き分けていた。

「佐野殿、お帰りなさい。」

姿を見るより早く、空蝉は穏やかに微笑む。

佐野も縁側へ腰を下ろした。

「空蝉。」

「何でしょう。」

「一つ頼みがある。」

空蝉は手を止める。

「佐野殿の頼みなら、お聞きします。」

佐野は少し間を置いて言った。

「松永久秀殿を見てきてほしい。」

空蝉の焦点の合わぬ瞳が、わずかに佐野の方へ向く。

「疑っておられるのですか。」

「いや。」

佐野は静かに首を振った。

「疑っているのではない。」

「人となりを知りたい。」

「あの御方は正直に語っているようで、どこまでが本心なのか分からぬ。」

空蝉は静かに頷く。

「承知しました。」

「人の心は読めません。」

「ですが、誰と会い、どこへ行き、どんな評判を持つかは調べられます。」

「しばらく畿内を歩いてまいりましょう。」

佐野は安心したように頷いた。

「頼んだ。」

空蝉は柔らかく笑う。

「お任せください。」

その言葉だけを残し、空蝉は杖を手に立ち上がった。

老人のようにゆっくりと歩き始めるその背を見れば、誰も一流の剣士とは思うまい。

しかし佐野だけは知っていた。

その歩みの裏に、獣のような速さが隠されていることを。

数日後。

佐野は一人、河内国へ向かっていた。

きっかけは堺で今井宗及と再会したときのことだった。

宗及は茶を点てながら、不意に口を開いた。

「左衛門尉殿。」

「一度、三好殿にお会いになってはいかがですかな。」

佐野は茶碗を置く。

「三好殿に。」

「ええ。」

宗及は静かに頷いた。

「松永久秀殿とはお話しになられました。」

「ならば今度は、もう一方の当事者のお考えも聞いてみるべきでしょう。」

「片方だけでは、畿内は見えてまいりませぬ。」

その言葉に、佐野も異論はなかった。

そして今日。

佐野は信貴山の山道を登り、三好方の居城・信貴城へと足を踏み入れる。

険しい尾根に築かれた城は、谷を見下ろす要害であった。

門前で名を告げると、番兵は深く一礼する。

「佐野左衛門尉殿でございますな。」

「三好様がお待ちしております。」

重い城門が音を立てて開く。

佐野は静かに城内へ歩みを進めた。

一方では空蝉が松永久秀の足跡を追い、

もう一方では佐野自身が三好の胸中を探る。

興福寺襲撃の真相へ至るため、二人はそれぞれ別の道を歩み始めていた。

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