京への帰還 ― 朝廷の恩賞
奈良を発った一行は、近衛前久を警護しながら京へ戻った。
先頭には儀仗抜刀隊。
佐野昌綱を中心に、水戸頼家、北畠具教らが周囲を固める。
奈良での襲撃を受けた以上、誰一人として気を緩める者はいなかった。
やがて無事に近衛邸へ着くと、前久は深く息をつき、佐野を座敷へ招いた。
水戸と北畠も同席する。
前久は静かに口を開いた。
「佐野昌綱。」
「はっ。」
「小田殿より許しは得ておる。」
佐野は顔を上げた。
「そなたに官位を授けたい。」
座敷は静まり返る。
しかし佐野は迷うことなく平伏した。
「恐れながら、お断り申し上げます。」
前久は眉を上げる。
「ほう。」
「私は小田家の家臣にございます。」
「官位を望んで京へ参ったわけではございませぬ。」
「ただ主君の命に従い、お守りしたまでのこと。」
その言葉を聞いた水戸頼家が笑みを浮かべた。
「佐野。」
「殿は、そのように申されると思っておられた。」
佐野が振り向く。
水戸は氏治から預かった言葉を告げた。
「『京では官位ある者の方が動きやすい。』」
「『もし朝廷より授けられるなら、有り難く頂戴せよ。』」
「『それは私のためではなく、小田のためである。』」
さらに水戸は穏やかに続けた。
「そしてもう一つ。」
「殿はこうも仰せだ。」
「『近衛殿を命懸けで守り抜いた褒美として受けよ。』」
佐野は目を伏せた。
氏治らしい言葉だった。
己の名誉ではなく、今後の務めのため。
そして功に報いるため。
しばらく沈黙したのち、佐野は近衛へ向き直り、深く頭を下げる。
「……それが主君のお考えであるならば。」
「ありがたく拝受いたします。」
前久は満足そうに頷いた。
「よろしい。」
「朝廷も、功ある者には応えねばならぬ。」
「そなたは武のみならず礼を知る。」
「その姿は、朝廷に仕える武士の模範となろう。」
こうして佐野昌綱は、近衛前久護衛の功により、朝廷から官位を授かることとなった。
それは一人の剣士への恩賞であると同時に、小田氏治と朝廷を結ぶ、新たな絆の証でもあった。




