東大寺 密議
東大寺の一角。
人影もまばらな回廊に、佐野昌綱、新田政景、空蝉の三人が腰を下ろしていた。
最初に口を開いたのは佐野だった。
「まず、あの者たちの武具です。」
「刀も短刀も、西国の作が多かった。」
「それだけの武器を揃えるには、相応の資金が必要です。加えて、西国に顔の利く者でなければ調達は難しいでしょう。」
新田は静かに頷く。
「金と伝手か。」
「そうです。」
「単なる残党では難しい。」
しばし沈黙が流れる。
やがて空蝉が笑った。
「怪しいだけなら、一番臭いやつを知っておる。」
佐野と新田が顔を向ける。
「誰です。」
空蝉はあっさりと言った。
「松永弾正。」
「陽動を好み、傭兵を使い、正体を悟られる前に口封じをする。」
「暗殺者が毒で自害したことも含め、やり口だけ見ればあやつほど似合う者はおらぬ。」
新田も否定はしなかった。
「確かに、臭い。」
「だが――。」
新田は腕を組む。
「一つ、腑に落ちぬ。」
「近衛前久殿が討たれて、一番得をするのは誰だ。」
二人は黙って聞く。
「それに、あの日、興福寺にいたのは近衛殿だけではない。」
新田は指を折って数える。
「小田様。」
「筒井殿。」
「今井宗及殿。」
「そして近衛前久殿。」
「皆、それぞれ狙う理由を持つ者がおる。」
佐野が頷く。
「つまり、標的を断定できぬ。」
「そうだ。」
新田は低く言った。
「近衛殿が本命だったのか。」
「氏治様だったのか。」
「あるいは宗及殿か、順慶殿か。」
「今の材料では決められぬ。」
空蝉は顎に手を当て、小さく笑う。
「だからこそ面白い。」
「標的が分からぬということは、敵はこちらにも分からせたくなかったということじゃ。」
三人は互いに視線を交わす。
疑わしい者はいる。
しかし、決定的な証拠はない。
東大寺の鐘が静かに鳴り響く中、三人は「見えているものほど、真実とは限らない」という共通の認識を胸に、さらに調査を進めることを決めるのだった。




