奈良口の挟撃
亀山城を発った一行は、興福寺を目指して奈良街道を北へ進んでいた。
先頭を儀仗抜刀隊の前衛が進み、その後ろに近衛前久の輿、さらに後衛が続く。
北畠教具は近衛のすぐ側を歩き、佐野昌綱は水戸頼家とともに隊列全体へ目を配っていた。
昼も近くなり、奈良の町並みが遠く見え始める。
「まもなく奈良にございます。」
北畠が静かに告げた。
その時だった。
街道の前方から荷車を連ねた行商人の一団が現れる。
同時に、後方からも別の商隊が近づいてきた。
旅人たちは道端へ寄り、一行へ道を譲る。
だが、その二つの商隊だけは違った。
前後から挟むように距離を詰めてくる。
佐野は歩みを止めた。
「……おかしい。」
水戸頼家も頷く。
「普通の商人なら、この人数を見て避けます。」
佐野の視線が前後を走る。
「挟む気だ。」
次の瞬間だった。
前後の荷車を覆っていた筵が一斉に跳ね上がる。
槍、刀、弓。
荷に隠されていた武器が姿を現す。
「討てぇぇ!」
怒号が街道に響いた。
荷車を捨てた男たちが、一斉に近衛前久の本隊へ襲いかかる。
「敵襲!」
佐野の声が響いた。
「北畠殿!」
「はっ!」
「近衛様の警護はお任せします!」
「後衛と本隊は円陣を維持! 一歩も動かすな!」
教具は即座に応じる。
「承知!」
「後衛は槍を構えよ!」
「近衛様を囲め!」
儀仗抜刀隊は命令どおり素早く隊形を変え、近衛を中心に堅固な守りを築いた。
敵の後方部隊は何度も突撃するが、槍衾の前に阻まれ突破できない。
一方、佐野は水戸頼家へ向き直る。
「頼家。」
「前を切り開く。」
水戸は笑みを浮かべた。
「承知。」
佐野は周囲を見回す。
「前衛!」
「私に続け!」
選び抜かれた数十名が即座に前へ出る。
「抜刀!」
一斉に刀が陽光を反射した。
「進め!」
佐野は真っ先に駆け出す。
敵も迎え撃つ。
しかし、その先頭へ飛び込んだ佐野の一太刀で最初の男が倒れた。
続いて二人目。
三人目。
その剣は止まらない。
水戸頼家も左右へ兵を振り分ける。
「左から回れ!」
「敵の横腹を突け!」
少数ながら統制された突撃により、敵前衛は次第に乱れ始めた。
佐野は敵将らしき男を見つける。
「そこか!」
男が槍を繰り出す。
佐野は身を沈め、その懐へ飛び込んだ。
一閃。
男は声を上げる暇もなく崩れ落ちる。
それを見た敵兵の動きが止まる。
「頭が討たれたぞ!」
「退け!」
統率を失った刺客たちは一斉に逃げ始めた。
そこへ水戸頼家が命じる。
「深追いするな!」
「本隊へ戻れ!」
佐野も刀を払い、頷いた。
「十分だ。」
「敵の狙いは近衛様。」
「守りを空ける必要はない。」
佐野隊が本隊へ戻ると、北畠教具が安堵の息をついた。
「近衛様はご無事です。」
近衛前久も静かに佐野を見る。
「見事であった。」
佐野は一礼した。
「敵はまだ諦めてはおりませぬ。」
「ですが、こちらの守りは崩せないと悟ったことでしょう。」
北畠は街道に散乱する荷車を見渡し、険しい表情で呟く。
「奈良へ入れば人目が増え、事は起こせぬ。」
「だからこそ、奈良口で勝負を賭けたのでしょう。」
近衛前久は静かに頷いた。
「敵も追い詰められているということか。」
再び隊列が整えられる。
儀仗抜刀隊百五十名は乱れ一つなく歩みを進め、奈良の都へと入っていった。




